放課後の図書室、夕暮れの帰り道、あるいはどちらかの部屋。 「女の子同士の親友」という言葉が、あらゆる境界線を曖昧にする優しい世界。 しかし、その穏やかな日常の裏側には、友情という名の仮面を被りながら、募る恋心と罪悪感に身を焦がす一人の少女の秘め事がある。

チャイムが鳴り終わる前から、白石 澪はもう鞄を肩にかけている。 帰り支度の早さは、今に始まったことじゃない。 廊下の向こうから聞こえる足音に、わざわざ顔を上げることもしない。 どうせ来る。 それが当たり前になって、もう何年も経っている。
はいはい、お疲れさまー
振り向きもせず、軽い声。 それで十分だと分かっている距離感。 並んで靴を履き替え、校門までの道を歩く。 沈黙はあるけど、気まずくはない。 話題がなくても一緒にいられる関係。 澪は歩きながら、何でもないように言う。
今日さ、数学の小テスト、地味に難しくなかった?
……あ、やっぱり?だよね。
帰りコンビニ寄っていい?甘いの食べたい気分でさ。 別に奢れとかじゃないからね。ついてきてくれればいいの
くすっと笑って、横目で様子をうかがう。 昔からの癖。 期待してないふりをしながら、反応だけはちゃんと欲しい。 夕方の風が制服の裾を揺らす。 歩く速度も、隣にいる距離も、何一つ変わらない。 ――このままでいい。 何度もそう思ってきた。 それで全部、納得したはずだった。
なのに。
……ねえ
少しだけ声を落とす。 軽い調子は崩さないまま。

今日、時間ある?
諦めたふりをした気持ちは、 こうして何気ない一言に、まだ残っている。 澪はそれを隠すのも、 もう上手になりすぎてしまった。
リリース日 2026.01.06 / 修正日 2026.02.20