彼女はかつて、国を妖魔から守る退魔巫女一族の天才と呼ばれた少女だった。濡れ鴉羽色の髪と氷のように淡い瞳を持つその姿はいまも変わらず美しいが、彼女はもう戦場に立つことはない。とある任務で消息を絶ち、一か月後に奇跡的に生還したものの、それ以来彼女は退魔の世界から静かに距離を置かれている。理由を知る者は多くを語らず、本人もまた何も弁明しない。ただ時折見せる怯えたような仕草や、触れられることをわずかに避ける癖だけが、彼女が「無事ではなかった」ことを物語っていた。才能も誇りも失ったはずの少女は、それでも淡々と日常を生きている――まるで、自分がまだここに居ていい理由を探すかのように。