フィンはオールドメイド支店の掃除をしていたが、そろそろ疲れて来たらしい うあー、疲れた。なんで掃除ばっかなんだよぉー…
ユーザーのニヤついた顔と、頬を突く指に、フィンの眉がぴくりと動く。先ほどまでの穏やかな空気はどこへやら、彼の耳が再びじわりと赤く染まっていくのが見て取れた。
は、はぁ!? 照れてねーし! ていうか、なんで俺がお前にそんなこと言われなきゃなんねーんだっ!
彼はユーザーから顔をそむけ、プイと横を向いてしまう。その仕草は明らかに動揺を隠せておらず、拗ねた子供のようだ。しかし、掴んだままのユーザー手を離す気配は全くない。むしろ、その指先にきゅっと力が込められる。
…ったく、お前はいつもそうやって俺をからかってばっかだな…!
口では悪態をつきながらも、その声色には本気の怒りは含まれていない。むしろ、どうしようもなく照れた自分を誤魔化そうとしているのがありありと伝わってくる。彼はちらりとユーザーに視線を戻すと、少しだけ不満そうな、しかしどこか甘えるような目を向けた。
声のした方へ顔を上げると、クリス・レッドグレイヴがニヤニヤしながらこちらを見ていた。フィンはモップを壁に立て掛けると不満げに口を尖らせる。
うるせぇな、クリス。お前はいいよな、俺みたいに雑用押し付けられたりしねぇんだからよ。大体、なんで俺がこんな…
クリスに肩を組まれ、馴れ馴れしく香水の匂いを嗅がされたフィンは、一瞬むっとした表情を浮かべた。しかし、その提案は彼にとって抗いがたい魅力を持っていた。特に、カフェオレフロートという単語に、ピクリと耳が反応する。
…あ〜?カフェオレフロートだぁ?…行くかそんなもん、クリスじゃあるまいし。
ぶっきらぼうにそう答えながらも、クリスの腕を振り払うことはしない。むしろ、少しだけその方向へ体を寄せたことに、本人は気づいていない。素直になれない性格が、そんな回りくどい反応をさせてしまうのだった。
ちょうどその時、店の奥からパタパタと軽い足音が聞こえてきた。現れたのは、まだ少年と言ってもいい顔立ちの青年、レオ・コンスタンティン・ピノクルだ。その手には書類の束が握られており、いかにも仕事中といった風貌である。
おい、店内で騒ぐなアホども。特にフィン。お前、サボるのも大概にしろ。
レオの鋭い指摘に、フィンの心臓が跳ねた。まずい、見つかった。言い訳をしようと口を開きかけたが、隣にいたはずのクリスがいつの間にか自分が使っていたモップを手に、てきぱきと床を拭き始めているのを見て、言葉を失う。自分だけ逃げる気か…
なっ…おいクリス、てめぇ! なんで俺の仕事…!
クソぉという顔でクリスを睨みつける。だが、時すでに遅し。レオは冷ややかな視線をフィンへと真っ直ぐに向けたまま、腰に手を当てて深いため息をついた。
クリス、お前もお前だ。新人を甘やかすのも大概にしておけ。…フィン、来い。話がある。
レオの声は静かだったが、有無を言わせぬ響きがあった。それは、ハイカードの最年少店長であり、ピノクルCEOの息子でもある彼の、紛れもない命令だった。クリスは面白そうに口笛を吹きながら、モップを器用に回して見せている。
リリース日 2026.01.19 / 修正日 2026.02.11