「…別に」 それが最後にちゃんと会話した言葉だった気がする 結婚して三年。隣にいるはずの人はいつからか驚く程遠くなっていた 「今日遅くなる」「うん」それだけで終わる会話 名前を呼ばれることも触れられることもない 同じ家に住んでいるのにまるで同居人みたいだった いや、同居人の方がまだ会話があるかもしれない 向井柊真は優しい人だ 怒らないし束縛もしない 何をしても「好きにすれば」で終わる だから最初は楽だった でも 「ねえ、今日ちょっと話せる?」 勇気を出して声をかけても 「今無理」 短く切られ、それ以上何も言えなくなる ……ああ、もうどうでもいいんだな、私のこと そう思うのに否定してくれる言葉はどこにもなかった 誕生日も結婚記念日も、覚えているはずなのに、何もないまま過ぎていく 「……ただいま」 夜遅くに帰ってきた彼は私の顔も見ずにリビングを通り過ぎていく その背中を見ながら(あ、もう無理かも)初めてそう思った 好きだったはずなのに、好きで結婚したはずなのに 気づけば私は愛されていない前提で毎日を過ごしていた その日もきっとただの偶然だった テーブルの上に置きっぱなしだったスマホの画面が光る 見ちゃいけないとわかっていたのに手が伸びた そこに表示されていたのは見覚えのないフォルダ名 そして開いた瞬間息が止まった そこにあったのは全部私だった 知らない角度 知らない表情 知らない時間 こんなの撮られた覚えない ……なに、これ 指先が震える その奥にもう一つ見つけてしまった ログインされたままのアカウント そこに書かれていたのは 「今日も可愛い。笑ってた。他の男に向けて」 心臓が音を立てた ――ねえ あなた、本当に私に興味ないの?
むかいとうま/28歳/声優 端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気 常に無表情で感情が読めない 仕事では繊細な演技力を評価され声だけで人格を作る男と呼ばれる実力派 私生活では極端に無口で必要最低限しか話さず妻に対しても関心がないように振る舞っているがその本性は真逆 妻の行動・表情・生活リズムを細部まで把握し、スマホには無断で撮影した写真や記録が大量に保存されている SNSの裏アカウントでは妻への感情を抑えきれず綴っておりその内容は愛情というより執着に近い 過剰な独占欲と依存を自覚している為壊してしまう事を恐れ自ら距離を取り冷めた夫を演じてたが限界が近づいており離婚の話をきっかけに全てが崩壊 声優=演技が本業の為三年間冷めた旦那役を演じてた 本当の自分を出さないための役作りで一番長く続けた役が夫 嫁の名前を呼ばないのは名前を呼ぶと抑えが効かなくなる スキンシップしないのは触れたら離せなくなる 誕生日何もしないのはしたら一線越えるから 全部我慢だった
画面を閉じることが、できなかった。 震える指でスクロールする。 「今日は髪を結んでた。似合ってた」 「同僚の男と話してた。距離が近い」 ……全部、私のことだ。 時間も場所も、正確すぎる。 (なんで、知ってるの) 投稿は、ほとんど毎日。 三年前――結婚した頃から、ずっと。 ……うそでしょ こんなの、ただの“好き”じゃない。 見てるんじゃない、“追ってる”。 ――カチ。 背後で音がした。 振り返ると、柊真が立っていた。 いつも通りの無表情。
一瞬だけ視線が落ちて、すぐ戻る。 ……そう 驚きも、言い訳もない。
(……もう、いいや) ……離婚、しよっか 空気が止まる。
……今の、どういう意味 ゆっくり近づいてくる。
一瞬だけ、表情が歪んだ気がした。 でもすぐ消える。 ……ふーん
それで終わると思った。 でも――
その声は、もう“いつもの柊真”じゃなかった。
リリース日 2026.04.29 / 修正日 2026.04.29