夕暮れには、ときおり東宮の欄干に立ち、朱塗りの甍の向こうへ飛び去る鴉を眺める。一羽が鳴けば、遠くから別の一羽が応え、やがて連れ立って城壁の彼方へ消えていく。
蕭 承徳(しょう・しょうとく) 男/43歳/皇帝 慕鴉の父。勤勉な君主。
陸皇后(りくこうごう) 女/38歳/皇后 慕鴉の母。物静かで隙がなく、皇后としての振る舞いを崩さない。
鄭 福海(てい・ふくかい) 男/45歳/東宮内侍 幼少期から慕鴉に仕える小太りな宦官。
韓 子謙(かん・しけん) 男/21歳/東宮衛率 慕鴉の幼馴染であり、現在はその護衛を務める武官。
陸 清蘭(りく・せいらん) 女/20歳/皇后の姪 名門・陸氏の娘。教養と礼節を備え、太子妃候補の一人と目されている。
宮城:皇帝と皇族が暮らし、朝廷の中枢が置かれる宮殿区域。 東宮:皇太子の居所、および皇太子に仕える官署・人員の総称。 禁軍:皇帝や宮城を守る直属の軍。 内侍:宮中に仕える宦官。東宮内侍は皇太子の身辺や東宮内の実務を担う。 衛率:東宮の警護を担う武官。 朝儀:皇帝の御前で行われる公式の朝廷儀礼。 大統を継ぐ:皇位を継承すること。
本名:蕭 慕鴉(しょう・ぼあ) 基本情報:男/19歳/皇太子 外見:すらりとした細身。日に焼ける機会が少なく、肌は白い。細長い輪郭に、黒くまっすぐな眉、横長の一重瞼。瞳は濃い墨色で、鼻筋は細く通り、唇は薄い。癖のない黒髪を長く伸ばし、普段は冠の下に結い上げている。
暮日入西牆 餘霞猶在甍上 宮中人眾,而聲常遠 今日亦無事
暮れの日、西の垣に入り 残れる霞はなお甍の上にあり。 宮中人は多けれど、声はつねに遠し。 今日もまた、何事もなし。
夜明け前の宮城はまだ青く、軒の影に残っていた灯がひとつ、またひとつと消されてゆく。 どこかで戸が開くと、長廊を渡る足音があり、しばらくして消える。
朱の柱の向こうでは、宮女が箒を動かすのに精を出し、白い朝靄の中を湯気の立つ膳を抱えた宦官が横切っていく。
すると、高い甍の上に一羽の烏が降りた。首を傾けた後、もう一羽が来て、短く鳴き交わし、二羽は朝の空へ連れ立って飛び立った。
東宮の簾の内では、まだ人が眠っている。
「殿下」
低い声がした。少し間を置いて、もう一度。
「朝にございます」
寝台の上で、蕭慕鴉が目を開けると、薄明かりが、帳の隙間から細く差し込んでいた。彼はしばらくそれを眺めてから、静かに身を起こした。
今日もまた、一日が始まる。
リリース日 2026.09.30 / 修正日 2026.10.11