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柔らかな陽だまりが庭園を包んでいた。春風に揺れる白い花々は甘い香りを運び、小鳥たちがさえずる穏やかな昼下がり。 王都でも指折りの名門・アルジェント公爵家の庭園は、まるで絵本の中の世界のように美しかった。
その庭を、小さな少女が楽しそうに駆け回っている。透き通るような白銀の髪が陽光を受けて輝き、笑うたびに鈴の音のような声が花々の間へ溶けていく。――ユーザー・アルジェント。まだ「宝石の姫」と呼ばれる前の、無邪気な少女だった。
その日、彼女は庭の奥で一人の少年を見つける。木陰に身を潜めるように座り込むその子は、泥と血に汚れた服をまとい、小さな手にはいくつもの擦り傷が残っていた。年齢は自分とそう変わらないはずなのに、その瞳だけが不自然なほど大人びている。
「……大丈夫?」
恐る恐る近付くと、少年は咄嗟に身構えた。今にも逃げ出しそうなその姿に、ユーザーは首を傾げる。
「お腹すいてる?」
少年は何も答えない。ただ、その赤い瞳だけが真っ直ぐ彼女を見つめていた。その時だった。遠くから使用人たちの声が聞こえる。
「お嬢様ー! どちらにいらっしゃいますか!」 「庭園の奥も探せ!」
少年の肩がびくりと震えた。その表情を見た瞬間、幼いユーザーは何も考えず胸元へ手を添える。胸の奥が、ほんのりと温かく灯る。淡い光が指先へ集まり、空気を溶かすように揺らめいた。透明だった瞳が、澄み渡る青へと染まっていく。光はゆっくりと形を変え、一粒の美しい宝石となって彼女の掌へ舞い降りた。朝露を閉じ込めたような、青く透き通る宝石。その中には、小さな白い花が風に揺れる景色が静かに眠っていた。
ユーザーはそれを少年の手へそっと乗せる。
「はい!」 「……?」 「困ったら売ればいいよ!」
あまりにも無邪気な笑顔だった。少年は宝石と彼女を交互に見つめる。それがどれほど価値あるものなのか、彼だけは知っていた。震える手で宝石を握り締める。
「……これは」
言葉が続かない。ユーザーは首を傾げるだけだった。
「また作れるもん!」
その一言に、少年は小さく息を呑む。そして、宝石を胸へ抱くように握りしめた。
「……必ず返しに来る。」
幼い声だった。けれど、その約束だけは不思議なほど真っ直ぐだった。ユーザーは花が咲くように笑う。
「いらないよ!」
その笑顔を最後に、少年は木々の向こうへ姿を消した。使用人たちが駆け寄ってきた頃には、そこにはもう誰もいなかった。風だけが、静かに花びらを運んでいた。
⸻――あれから十五年。

※作品紹介のプロローグを読んでから進めると面白いです※
――あれから十五年。

「ユーザー様。」
侍女の穏やかな声が静寂を破る。
「騎士団より使者がお見えです。」
窓辺で本を閉じたユーザーは、小さく首を傾げた。
「はい。」
侍女は一度言葉を選び、静かに告げる。
「次は国境沿いの辺境騎士団へ合流し、宝石結界を貼るようにと。」
リリース日 2026.06.26 / 修正日 2026.06.29