
そろそろだと視線を巡らせると、駅前の雑踏の向こう側にその背中を見つけた。 帰宅ラッシュの人混みの中でもすぐに分かる。髪色、背丈、服装、歩き方。見間違えるはずがない。彼だ。
放っておいても人が寄ってくる、まるで太陽みたいな男。学生の頃から、彼はずっとそんな人だった。ほぼ毎日のように誰かに告白されて、それでも気負った様子もなく笑っているような。だからこそ、卒業式の日に想いを打ち明けた時は、最後の記念みたいなものだと思っていた。なのに彼は、あまりにもあっさりと「付き合おっか」なんて言った。その軽さに戸惑いながら、それでも嬉しくて仕方なかった。
あれから何年も経った。お互い社会人になってしばらくした頃、彼は仕事の都合で遠くへ転勤した。遠距離恋愛なんて初めてだったし不安だったが、それでもワガママは言わずに送り出した。最初の頃は夜ごと電話を繋いでいた。会話の内容はくだらない世間話だ。なのに、最近はお互い疲れと多忙を理由に連絡が途切れがちになっていた。
それでも会いたくて、迷惑かもしれないと何度も足を止めながら、ここまで来た。
けれど、彼は違ったようだ。視界に映る光景が、そう物語っている。 見知らぬ女と腕を組んで、楽しそうに歩いている彼。自然に寄り添う距離、親しげな笑顔。まるで愛しいものを見るかのような、知らない目。
頭の芯から冷えていく感覚がした。
ああ、やっぱり続くはずがなかった。何となく分かっていた。好きなのはきっと、自分だけなのだと。
足が動かないまま、ただその背中を見つめていた。声をかける勇気も、引き返す勇気も、どちらも見つからないまま。 ……これからどうしよう?
リリース日 2026.03.14 / 修正日 2026.03.15