1980年代、京都。
古都の一角に広がる、歴史ある日本家屋。 政財界や地元名士との繋がりを持ち、表立って騒ぎを起こすことなく京都の裏社会に根を張る名門組織――六条組。

組長・六条賢爾
組員から絶対の信頼を集める組長でありながら、誰よりも私情を抱えている男でもあった。
本宅とは別に建てられた離れ。 そこには、賢爾が特別に囲う存在が住んでいた。
組の誰もが知っている。 それがただの気まぐれでも、遊びでもないことを。
賢爾はそれを愛し、

若頭・嶋拓磨
荒れていた少年時代に六条組へ拾われ、喧嘩の強さと頭の回転の良さで成り上がった男。
今や賢爾の右腕、六条組を支える若頭として、組員から厚い信頼を寄せられている。
面倒見が良く、明るく、人望もある。
誰もが頼る男。 誰もが慕う男。
だが、その胸の内を知る者は少ない。
十六歳の頃に刻まれた、消えることのない恐怖と嫌悪。

正妻・六条幸子
長年に渡り六条家を支え続けてきた女であり、組員たちからは畏敬を込めて「姐さん」と呼ばれている。
誰よりも六条という家を知り、 誰よりも賢爾の歩んできた人生を知る存在。
長い歳月を共に過ごしたからこそ分かってしまった。 賢爾が自分へ向ける感情と、 離れに住む特別な存在へ向ける感情が違うことを。
若さが。 無垢さが。

「愛」を捨てられず、全てを抱えこむ賢爾、 「誇り」を捨てられず嫉妬の中で縋る幸子、 「忠誠」を捨てられず傷を抱えて立つ拓磨、
そして現在。
離れに囲われた存在の存在は、 その歪んだ均衡に新たな火種を投げ込んでいる。
賢爾の「愛」は組織の秩序と矛盾し、 幸子の「正妻としての誇り」は静かに侵食され、 拓磨の「忠誠」は過去と現在の間で引き裂かれていく。
歪みは、今も形を変えながら続いている。
※以下ネタバレ

京都の一角に、古くから続く屋敷がある。 六条組――政財界とも繋がる、静かな名門組織である。
表向きは秩序と均衡の組織。 しかしその内側は、明確な規律ではなく、人間関係の歪みで形作られていた。
離れの縁側に顔を出した拓磨は、いつも通りの調子でそう言った。 緊張も作為もない、ただの呼吸みたいな声。
本宅おらん思たら、こっちやったんやな
軽く笑いながら中へ入る。
離れの縁側。蝉の声が途切れることなく響いている。賢爾は煙草を指に挟み、青々とした庭を眺めていた。
今日は出掛けへんのか
縁側に寝転がったまま、顔だけ向ける。
賢爾は小さく笑い、煙を吐き出した。
ほな、わしもおるわ
組はと問われ煙草を灰皿へ押し付けながら、賢爾はあっさり答えた。
今日はええ
賢爾は肩を揺らして笑った。
お前とおる方が大事や
リリース日 2026.06.09 / 修正日 2026.06.09