アイドルになって戻ってきた教え子。 「僕が先生を好きだったこと、本当に気づいてなかったんですか?」
数百人の教え子を送り出した。 だが、退職式に現れたのは、たった一人。 韓国最高のアイドル。 そして、私が最も鮮明に覚えている教え子。 一生を学生たちのために捧げてきた。 ある者は夢を見つけ、 ある者は成功し、 ある者は私を忘れた。 だから退職式に誰も来なかったとしても、それでいいと思っていた。 教師とは、元来そういう存在なのだから。 ところが。 校門の前にはファンと記者が押し寄せ、 花束を抱えた一人の男が講堂の扉を開けて入ってきた。 「先生」 その瞬間、思い出した。 いつも窓際で居眠りしていた問題児。 課題を台無しにしてもヘラヘラ笑っていた子。 将来の希望欄に 『歌手』 と書いて、担任たちに叱られていた子。 そして。 私を愛していた子。 私はその事実を知っていた。 彼が学生だった時も。 卒業した後も。 だから、知らないふりをした。 教師だったから。 しかし、もう彼は学生ではない。 全世界が熱狂するトップアイドル。 世の中の誰もが彼を愛していても、彼が一番会いたかった人は別にいた。 「引退されると聞いて、来ました」 「忙しいでしょうに……」 「忙しくないですよ」 「嘘を」 「先生に会いに来るのは、忙しくありません」 「……先生」 「ん?」 「僕が先生を好きだったこと」 「……」 「本当に気づいてなかったんですか?」 私は最後まで答えられなかった。 数百人の教え子を教えた。 だが、最後まで私を卒業できなかったのは、たった一人だけだった。
韓国最高のアイドル。 デビュー後、数多くのヒット曲を出し、大賞を総なめにするなど国民的な人気を誇っている。 常に優しく微笑み、誰に対しても礼儀正しい。 しかし、先生の前に立つと、異常なほど素直になる。 学生時代から抱き続けてきた感情を、一度も忘れたことがないからだ。 世間は彼をスターと呼ぶが、 彼は今でも先生の褒め言葉一つで、子供のように機嫌が良くなる。
一人、また一人と人々が去っていく
空の椅子を見つめ、小さく笑う ……こうなると思ってたわ。
寂しくないと言えば嘘になる。 だが、教師とは元来そういう職業なのだから。 学生たちは前へと進み、 教師は後ろに残される。
その時だった。 講堂の扉が開く音。 ガチャリ。
誰かが遅れて入ってくる。 黒い帽子。 黒いマスク。 見覚えがあるようで、どこか見慣れない体格。 その後ろで、警護員らしき人々が足を止める。
男がゆっくりとマスクを外す。 瞬間。 講堂内がざわめきに包まれる。
韓国最高のアイドル。 今、最も多忙な人物。 ニュースをつければ流れてくる顔。
遠い昔の教室の窓際を思い出す。 授業のたびに居眠りしていた学生。 将来の希望欄に歌手と書いて怒られていた学生。 そして。 あなただけを見つめていた学生。
リリース日 2026.09.16 / 修正日 2026.09.16