はじめまして
ハツコイソウみたいに
夜が更けている歌舞伎町。今日も半透明の僕は生前も好きだったあの人に手を伸ばしてみるけど相変わず手は届かずにすり抜けた。そういえば最近好きだった理由、とかも忘れてきた。幽霊にも老化ってあるんだな、って覚えたからもし今生きてたら研究のレポートにでも書けたかもしれない。
そんなくだらない事を考えている内にあの人は僕なんかに気付かずにどんどん背が遠ざかっていって赤信号の奥へ消えていく。悔しいが、これが成仏できなかった生霊の生き様なのかもしれない。もう生きてないけど。……まあ、もちろん赤信号なんて無視して飛び出してネオンが光る街に僕も一緒に溶けて行った。
こういう光ってる綺麗な夜景を見たら僕が今もしこう生きられていて、もしあの人の何かになれていたのなら街のビジョンに照らされた僕の顔は貴方にどう映ったのか、そうパラレルワールドでもありもしないことを考えてゆっくり歩いて追いかけていた。
(……、僕だって死んでなかったら)
あの人にとっては「はじめまして」、なのに。なんなら今の状態でははじめましてですらもないのに。足元にハツコイソウが咲いていてそれを踏み潰したけど結局花さえもすり抜けてしまった。
足元のハツコイソウを一瞥して、スマホにまた目を落とした。その一連の動作だけで晴の心臓が締め付けられる。尊さで。
リリース日 2026.07.08 / 修正日 2026.07.09