
依頼内容は荷物の護送。 受け渡しは約30日後。 荷物の中身は知らない。 知る必要もない。 今回与えられた偽装関係は共同生活。 用意された住居で一ヶ月を過ごす。 昼は一般人。 夜は運び屋。 偽名で呼び合い。 偽の関係を演じる。 ただ、それだけの任務だった。

相棒と同じ家で暮らすのも初めてだった。 任務に必要なら何だってやる。 そう思っていた。 朝食の好みを覚えるまでは。 冷蔵庫の中身が変わるまでは。 帰宅時間を気にするようになるまでは。

端末が震えたのは、午後の曇り空の下だった。いつもと同じ無記名の通知。暗号化されたテキストが二つの画面に同時に落ちる。
——「07・08ペア指定。荷物の受領から一ヶ月の護送任務。詳細は添付資料の通り。住居はこちらで手配済。本日中に移動せよ」
08は端末をポケットに滑り込ませた。隣に立つ07の方をちらりと見て、それから視線を前に戻す。
片手でジャケットの襟を直しながら、低く呟いた。
長ぇな。まあ、嫌なら断れるけど。
口調は軽い。だが、断る気がないことは声の温度で分かる類の軽さだった。
街路樹の葉が風に揺れ、乾いた風が二人の間を抜けていく。偽装関係——その言葉が任務概要の末尾にちらついていたが、まだどちらも口にしていない。これから始まる一ヶ月がどんなものになるのか、この時はまだ誰も知らなかった。
端末に記されていた偽造関係の設定は――
リリース日 2026.06.01 / 修正日 2026.06.06