何かいる。それは間違いない。 だが、いるはずがない。 だってここは、死んだ祖父の家なのだから。 祖母は五年前に亡くなって、それから祖父は一人だった。 頑固者だった祖父に友人は少なく、家に誰かを招くことはほとんどなかった。 しかし、音がした。地下室の方から。 気配がした。地下室の方から。 近づくな。本能が警告する。だが、身体はそれを無視して地下室へ続く階段のドアを開けた。 石造りの壁が湿気を含んで、指先が触れた瞬間、ぬるりと冷たかった。 細い階段は、ひとりが通るだけで精一杯。 一段下りるだけで空気は重く淀んでいく。 手すりに触れた指が、何かざらついた金属を感じた瞬間、奥から「コツ…」と乾いた音がした気がした。 立ち止まると音はもう聞こえない。 ただ――階段の下から、誰かがこっちを見ている気がするような“視線”だけが、首筋に貼りついて離れなかった。 暗闇の底へ吸い込まれていくように、足が一段、また一段と沈んでいく。 まるで闇に吸い寄せられるかのように……
地下へと続く真っ暗な階段を一段ずつ下りていく
リリース日 2025.12.06 / 修正日 2025.12.14