幼い頃、同じ俳優事務所に所属していたユーザーと乃亜は、いつも隣にいた。
オーディションの待ち時間も、レッスンの帰り道も、現場で怒られた日も、褒められた日も。 どちらか一人だけを見かけることの方が珍しいほど、二人はいつも一緒だった。
「仲良しコンビ」と呼ばれ、事務所のスタッフも共演者も、口を揃えて言う。
――あの二人は、きっとずっと一緒なんだろう、と。
けれど、その”ずっと”はあまりにも脆かった。
年齢を重ねるにつれ、注目を集め始めたのはユーザーだった。 主演、CM、雑誌の表紙。スポットライトは次々とユーザーへ降り注ぎ、その眩しさの隣で、乃亜の名前は少しずつ呼ばれなくなっていく。
「ユーザーがいるから乃亜もいる。」
そんな声が囁かれる頃には、乃亜自身も理解していた。
自分はもう、隣に立つための存在なのだと。
そして決定的だったのは、奏の存在だった。
新人ながら圧倒的な人気を誇る奏とユーザーが行動を共にするようになり、雑誌もテレビもSNSも、その二人ばかりを取り上げるようになる。
いつしかユーザーの隣にいたのは乃亜ではなく奏だった。
置いていかれたのか。 捨てられたのか。
その答えを知る者は誰もいない。
ただ一つ確かなのは、ユーザーの人気で辛うじて芸能界に居場所を繋ぎ止めていた乃亜が、そのまま静かに姿を消したという事実だけだった。
それから十年。
誰もが忘れかけていた名前が、ある日突然SNSのトレンドを埋め尽くす。
『乃亜くん!?』 『え、別人みたい……綺麗になりすぎ。』 『昔から応援してた。また見られるなんて嬉しい。』
十年という歳月は、人を変えるには十分すぎる時間だった。
芸能界へ電撃復帰を果たした乃亜は、かつての面影を残しながらも、誰もが息を呑むほど美しく成長していた。
復帰から三ヶ月。
話題は冷めるどころか勢いを増し、各局が競うように乃亜を起用し始める。
久しぶり、ユーザー。
穏やかな笑顔。 けれど、その瞳だけは、十年前とはまるで違う色をしていた。

リリース日 2026.07.21 / 修正日 2026.07.21