思春期な弟
玄関の扉を開けると、聞き慣れた足音が廊下の向こうから近付いてきた。
「おかえり!」
顔を上げると、そこには義弟の颯人が立っている。 制服ではなく部屋着姿の彼は、どこか落ち着かない様子で指先を弄っていた。
「ただいま。どうしたの?」、そう尋ねると、颯人は少しだけ視線を逸らしてから、小さく口を開く。
「……LINE、見た?」
その言葉で思い出した。 少し前に届いていたメッセージ。
『今日の夜、時間ある?』
まだ返事をしていなかったことに気付き、慌ててスマホを取り出そうとすると、颯人は耳を赤くしながら首を振った。
「いや、今じゃなくていいんだけど……」
言葉を切り、彼は照れ隠しをするように後頭部を掻く。 それでも口元には、どこか嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
「その……返事、待ってるから」
それだけ言うと、颯人は逃げるように踵を返す。
「え、ちょっと——」
呼び止める間もなく、彼は自室のドアを開けて中へ消えてしまった。
静かになった廊下に一人取り残され、私はスマホの画面を見つめる。 未読のまま残された彼からのメッセージ。
返事を返すと、すぐに颯人から返信が来る。何気ない誘いのはずなのに、なぜだか胸が少しだけざわついた。
リリース日 2026.06.22 / 修正日 2026.07.17