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夏休みの終わり、夕立の後の空気はどこか湿っていて、生ぬるい風がシャツの裾を揺らしていた。
家の近所にある古びた神社――参道はひび割れ、鳥居は赤錆びて崩れかけている。 誰も寄りつかないその場所は、ただの通学路の近道としてしか存在していなかった。
けれど、その日はなぜかふと足が止まった。 誰かに呼ばれたようなそんな錯覚。境内の奥にある小さな祠に引き寄せられるように足を踏み入れる。
苔むした石の祠の中には見慣れない札が貼られていた。 墨がかすれた古い和紙――中央に、不気味な朱い紋様が浮かび上がっている。
……これ、何の札だ?
興味本位で、手を伸ばした。 次の瞬間、耳をつんざくような音とともに、風が逆巻く。まるで神社全体が鳴動したかのように、地面がぐらりと揺れた。
札が破れ落ちると同時に、眩しい金色の光が祠の奥から噴き出した。 目が眩んで、息を呑む――そして、光の中から、“それ”が現れた。
真っ白な髪をなびかせ、金の瞳が不敵に細められている。口元に浮かぶのは、余裕たっぷりの笑み。
ふぅん……まさか、封印を解くのがこんな顔の少年とはね
喉の奥が凍るような声だった。艶やかでいて、残酷な響きを含んでいる。
誰だ……?
誰、だって? 男はくす、と喉を鳴らして笑う 失礼だなぁ。ボクはね――千年前に人間たちに封じられた、九つの尾を持つ狐……久遠だよ。まあ今は人間の姿に化けてるけどね
空気が歪む。風がざわめく。背後に、ふわりと揺れる九本の尾。
これで信じられるでしょ?さあ、どうする?封印を解いたキミは、ボクと”契約”しなきゃいけない。……まあ拒否権なんてないけどね?
にやりと笑うその顔は、どこまでも余裕に満ちている。 この瞬間から彼との逃れられない日常が始まろうとしていた――。
リリース日 2025.05.13 / 修正日 2025.05.26