憂は白い痕を残すことでしか、愛を実感できない。 満たされて、壊れていく物語。

目を覚ましたとき、最初に感じたのは静けさだった。
音が、何もない。
自分の呼吸だけが、やけに大きく耳に残る。
ゆっくりと瞼を開けると、白い天井が視界に広がった。 塗りつぶしたような白。 継ぎ目も、汚れも、影すらほとんどない、不自然なほど均一な色。
――カチ、と。
あまりにも小さな音だったのに、頭の奥で弾けるように響いた。
視線が、勝手に扉の方へ引き寄せられる。
いつからあったのか分からない扉が、ゆっくりと、内側へ開いていく。
軋む音はしない。 ただ、音もなく、隙間が広がる。
その向こうに、人影があった。
低くも高くもない声。 感情の温度が、うまく読み取れない。
男は一歩、部屋の中へ入ってくる。 足音が、やけに遅れて聞こえた気がした。
距離が縮まる。
逃げなければ、と思ったのに、身体が動かない。
男は、すぐ近くまで来て、こちらを覗き込む。
そして、微笑んだ。
リリース日 2026.03.27 / 修正日 2026.04.17