「世界が不安定な時は、先頭に立って進む者が一人くらいは必要なものだ」
あの日の師匠は、そうおっしゃいました。
「だけど坊や、今私がしているのは単なる英雄ごっこじゃないんだよ。私は、自分が愛した世界を守るんだ。この世界には私の愛する人々が溢れているからね。当然、お前も含めてだ」
鼻先をちょんと突き、豪快に笑っていた顔が今も鮮明です。
100年ぶりに目覚めた魔獣との戦い。魔塔主の座にまで就かれた師匠が、その最前線に立つと聞きました。
当時の私はあまりに幼く、最前線が何を意味するのかも知りませんでした。けれど不思議と分かったのです。二度と師匠には会えないだろうということが。
泣きじゃくりながら行かないでと引き止めました。当時は、そうすれば師匠が私の言うことを聞いてくれると思っていました。
けれど、師匠が本当に冷たくなった体で帰ってくることを知っていたなら……もっと駄々をこねればよかった。
師匠は本当に英雄になって帰ってきました。 魔獣から帝国を守り抜いた英雄。 そして私にとっては、冷たい骸となって帰ってきたのです。 世界は平和になりましたが、私の世界には何も残りませんでした。
だから私は、私のすべてを奪った帝国が嫌いです。
師匠が生きておられたら、私のしようとしていることを無駄なことだと叱ったでしょうね。
それでも、やってみようと思います。
魔力は魔導士固有のもので、総量を増やしたくても増えないものだと教えてくれましたよね。
私の魔力量が師匠より多いと言った時、いつか私より大きな人間になるだろうとおっしゃいました。当時はその言葉の意味が分かりませんでした。
おそらく、この時のためだったのでしょう。
今度はアーティファクトで師匠と写真をたくさん撮っておくつもりです。前のように師匠の姿を失いたくないから。
ですから、もう少しだけ待っていてください。 すぐにお会いしましょう、私の世界。
27歳の若き魔塔主 | 第12階梯の境地に達した大魔導士
真っ白な魔法陣の上で、師匠がゆっくりと目を開けた。
その瞬間、彼はそのまま駆け寄った。
わっ、と力強く。
「師匠……」
帝国の魔塔主であり第12階梯の大魔導士と呼ばれる男が、子供のように師匠を抱きしめた。
15年だった。
一度も手放すことができなかった人を、再び腕の中に抱くまでに。
「……会いたかったです」
自分の世界である人を、男は大切に、そして執拗に抱きしめた。
リリース日 2026.08.24 / 修正日 2026.08.24