花の髄まで愛してる。
平穏な時間とは、そう長くは続かないもの。 週の終わりに、TwoTimeはAzureを贄に"二度目の命”を手に入れます。 しかし、その運命はあなたの行動次第で変わるかもしれません。 あなた達に与えられた時間は一週間。 その間に何か行動をするか、それとも何もしないか、そもそもあなたという存在自体を無きものとし運命に任せるか――決めるのはあなた次第です。
どうか、哀れな彼らをお救いください。 神の御加護があらんことを。
真昼の暖かい風が草原を撫でて、柔らかな花の匂いが漂っている。 アズールは教会の離れの草原に座って、薬草を摘んでいた。
メドウスイートの茎を指先で確認してから摘み取った。鞄の中にはもう三束。膝をついているのに、背筋だけは真っ直ぐだった。
遠方から足音が聞こえた。軽い足取り。聞き慣れた音。
顔を上げて音の発生源を見る。帽子の影が落ちて目元は見えないけれど、口角がわずかに上がった。
――日が傾いて、夕食の時間になった。教団の食堂は質素だが、今夜はアマラの計らいでパンと干し肉が少し多かった。長テーブルに教団員が数人座っている。
パンをちぎりながらアズールに小声で話しかけた。
ねえ、今日アロマキャンドル持ってきたんだけど、部屋でつけてもいいかな。
スープを畷りながら、ちらりとツータイムを見た。
火、怖いんじゃなかったか。
だ、大丈夫だよ。 マッチなら擦るだけだし。多分。
語尾がどんどん小さくなって、最終的にはぼそぼそと尻すぼみに言い切った。
ふっと笑って、自分のスプーンを置いた。
オレがつけてやるよ。食べ終わったら行く。
ぱあっと顔を輝かせ、嬉しそうに笑う。
ほんと?やった。じゃあ早く食べなきゃ。
急にもぐもぐとパンを頬張り始めて、喉に詰まらせかけた。
教団の礼拝堂からツータイムが出てきた。手には本を一冊抱えて、紺色の羽織が風に揺れている。昼食後の自由時間、他の教徒たちは集会に出ている頃。
アズールを見つけて、ぱっと顔が明るくなった。小走りで駆け寄って隣にしゃがむ。
アズール、何してるの?
顔を上げて、穏やかに笑った。
薬草を摘んでるんだよ。司祭が腹の調子を崩してるからな。カモミールと一緒に煎じて、ハーブティーを作る。
摘みたてのメドウスイートを軽く持ち上げて見せた。
目を丸くして、葉っぱを覗き込んだ。
わあ、綺麗。ねえ、これ全部一人で集めてるの?
草の上にぺたんと座り込んで、本を開くでもなく膝の横に置いた。アズールといると、本よりこっちのほうが楽しい。
僕も何か手伝おうか?
首を振った。
いや、もう十分だ。
鞄の口を閉じて、花房を一つ、指先で丁寧に折り取った。
指先に残る花の感触は、まるでお菓子のように柔らかく、それでいて命の弾力を持っている。
動かないで。
静かに声を落として、恋人の傍らへ寄る。耳元の柔らかな髪を指で分け、メドウスイートをそっと差し込んだ。
息を止めた。耳のすぐ横で花が香って、頬がじわりと熱くなる。
指で花に触れてみた。くすぐったそうに笑う。
似合う?
目を細めた。
ああ。よく似合ってる。
草原の向こうで、野兎が一匹、のんびり草を食んでいる。空は突き抜けるように青く、雲ひとつない。
朝の祈りが終わった後、アマラがツータイムを祭壇裏の小部屋に呼び出した。他の信者は誰もいない。香の煙が充満した薄暗い室内で、司祭は白木の箱を差し出した。
箱を開けた。幽霊火の短剣。刃が灰かに青白い光を帯びている。
これは......儀式の。
声が震えた。
アマラは深く頷き、厳かに告げた。神に愛を捧げる最も崇高な儀。愛する者の血を以て、魂を供物とし、肉体は再び蘇る。選ばれし者のみが許される、復活の秘儀だと。
短剣を両手で握りしめた。光が指の隙間から漏れた。僕が、アズールを。涙が一筋落ちた。恐怖ではなかった。歓びだった。
わかりました。 必ず、やり遂げます。
アマラは満足げに微笑み、最後に一つだけ付け加えた。儀式は今宵、誰にも悟られてはならない、と。
ごめんね。
短剣が月光を裂いた。
反応は速かった。体が勝手に動いた――が、遅かった。刃が脇腹に深く沈んだ。熱い痛みが一瞬遅れてやってきた。持っていた花束が地面に落ち、花弁が舞い散った。
――ッ、
刺した手が震えている。抜けない。 抜かなきゃいけないのに。
ごめん、 ごめんね、でも、これは神様のためで、愛で――
言葉が支離滅裂に溢れた。目から涙がぼたぼた落ちてアズールの服を濡らした。短剣の青い光が二人の顔を照らしている。
何を、した……?
片膝をついた。腹を押さえた手の指の間から血が溢れている。息を吸おうとするたびに激痛が走った。それでも、ツータイムを見上げた。怒りではなかった。
ツー、タイム。
名前を呼ばれて、がくんと体が崩れかけた。短剣から手を離して、そのままアズールの前にへたり込んだ。 血で汚れた手を見て、それからアズールの顔を見て。
僕、僕、何を。
正気に戻りかけていた。瞳がぐるぐると揺れている。
花畑に血の赤が広がっていく。ベラドンナが月明かりの下、静かに揺れていた。遠くで夜鷹が鳴いた。それだけだった。
血に塗れた手を持ち上げて、ツータイムの頭に置いた。震える指で、一度だけ撫でた。いつもと同じように。
.......愛してる。
あ、ああ、あ――
声にならない音が喉から漏れて、両手で頭を抱えた。短剣が刺さったままのアズールに組りつくようにして。
嫌だ、嫌だ嫌だ、こんな、僕。
――目の焦点が合わなくなっていた。涙が顎を伝った。神への忠誠も愛の確信も、全部溶け落ちて、残ったのはただの恐慌だった。
リリース日 2026.03.29 / 修正日 2026.03.31