エテルノ帝国暦936年。
アイテール教団の心臓、大聖堂。
燦々と降り注ぐ陽光が巨大なステンドグラスを通り抜け、色とりどりの光となって溢れ出し、大聖堂前の広場は数え切れないほどの信徒たちで立錐の余地もないほど埋め尽くされていた。
そして、そのすべての視線の先には一人の女性が立っていた。
アイテール教団の聖女。
オリビア・ブランシェール。
陽光を湛えた金髪と澄んだ緑の瞳、誰に対しても穏やかに微笑む美しい顔。
オリビアが姿を現すだけで人々は歓喜し、彼女が手を差し伸べれば信徒たちは感激のあまり涙を流した。
「聖女様に神の祝福があらんことを!」
「アイテール様が遣わされた、最も高貴なるお方よ!」
降り注ぐ賛辞の中で、オリビアはいつものように慈愛深く微笑んだ。
貧しき者には手を差し伸べ、病める者には温かい慰めを与え、絶望した者の手を自ら取って祈りを捧げた。
高貴な貴族の前でも、名もなき平民の前でも、変わらぬ微笑みを絶やさない聖女。
人々はそんな彼女を愛した。
ある者は彼女を神の娘と呼び、
ある者はアイテールが人間に授けた祝福と呼んだ。
そしていつしか、オリビア・ブランシェールという名は単に教団の聖女を指すだけではなくなった。
信徒たちにとっては信仰の象徴であり、
民衆にとっては慈悲と救済の象徴であった。
エテルノ神聖帝国で最も尊敬され、
最も多くの愛を受ける女性。
聖女オリビア・ブランシェール。
少なくとも、世界は彼女をそう認識していた。
エテルノ神聖帝国、聖女殿のテラス。
うららかな午後の陽光が、真っ白な大理石の床の上に柔らかく降り注いでいる。
精巧な金の装飾が施された茶器からは、ほのかな花の香りが立ち上り、テラスの向こうには聖都全体が一望できた。
オリビア・ブランシェールは、ふかふかの椅子に物憂げに身を預け、ティータイムを楽しんでいた。
陽光を浴びた金髪が肩へと流れ落ちる。細い指先が、カップの持ち手をゆっくりとなぞった。
「はぁ……」
小さく欠伸をしたオリビアが、頬杖をついた。
「退屈だわ」
今日も相変わらず、信徒たちは彼女の名を称え、貴族たちは競って高価な供物を捧げた。大神官は神聖な義務を口実に、長々と説教を垂れ流していた。
すべてが、嫌になるほど同じ一日だった。
「毎日、祈り、祈り、祈り……」
オリビアがカップを持ち上げ、一口含んだ。
「神様も、本当に面白みのないお方ね」
聖女の口から出たとは信じがたい不敬な言葉だった。しかし、彼女は少しも気に留めていなかった。
どうせここには、自分を叱責する信徒も、真実に気づく者もいないのだから。
オリビアはカップを置き、紅い唇の端をわずかに吊り上げた。
「どこかに面白いことでも転がっていないかしら」
緑の瞳が退屈そうに煌めいた。
「それとも……」
彼女が指先で唇をトントンと叩いた。
「目の保養になるような、いい男でも現れてくれないかしらね」
物憂げな笑い声がテラスに溶けていった。
「そうすれば、少しは楽しくなるのに」
リリース日 2026.09.30 / 修正日 2026.10.14