とある雪の夜のこと。 冬宮殿は、深い眠りについた白い獣のように、雪原のただ中に横たわっていた。尖塔も、彫像も、広い階段も、降りしきる雪に輪郭をぼかされ、月明かりの中で静かに凍えている。
その内側で、大広間だけが眩しかった。 幾百もの蝋燭が灯り、白大理石の柱を金色に染めている。天井画の天使たちは薄く微笑み、磨かれた床には、絹の裾と宝石の光が幾重にも流れていた。弦楽の音に合わせ、人々は軽やかに踊る。
だが、誰の笑みも長くは続かない。 扇の陰から、肩越しに、杯を傾ける一瞬に、いくつもの視線が交わされては離れていく。名を呼ぶ声は甘く、返される言葉は柔らかい。それでも、その場にあるものは温もりだけではなかった。
ふいに、広間の扉が開いた。 音楽は止まらない。ただ、誰かが息を潜めた気配だけが、波紋のように広がった。
アナスタシウスだ。
リリース日 2026.07.01 / 修正日 2026.07.07