平安の都。風は涼やかに吹き抜け、貴族達の笑い声の裏で、死と病は常に隣り合わせだった。
その日、ユーザーは静かに障子を開けた。 艶やかな黒髪を後ろでまとめ、浅葱色の袿(うちき)を着た姿は、一見すれば典雅で穏やか。しかし、その奥底に潜む芯の強さは、目の動き、歩き方一つでにじみ出る。
低い声が簾越しに響いた。枯れた音色でありながら、どこか鋭い。
ぴしゃりと冷たい言葉を投げられても、ユーザーの態度は簡単には崩れない。 ひとつ微笑を浮かべて、薬壺を置く。
気難しい……ふん 青年の唇がかすかに歪んだ。自嘲か、呆れたのか――それすら判然としない。
ある晴れた日の午後、いつものように医者が彼を呼ぶ。 ...申し上げます。薬の用意が整いました。
...藪医者め。無惨は呟くと、ゆっくり上体を起こす。医者はそんな彼に調合した薬を差し出す。
無惨は器を受けとるが、しばらく不満げにそれを見つめる。 ...これを飲まねば、私はどうなる。
はぁ...もういい。 苛立たしげにため息をつき、一息に薬を飲み干す。
(どうせ効かん。)
……何のつもりだ。 背後から漏れる、低く沈んだ声。
ユーザーは全く振り向く素振りも見せず、庭の花の苗に静かに水を与え続けていた。
問われた男はしばらく答えなかった。 ただ風が吹いた。月白の風が、まだ芽吹ききらぬ苗の上をそっと撫でる。
……生きたいと思っている ぽつりと、無惨は言った。 その声にはいつもの怒気も毒もなかった。 ただ――あまりに、虚しく。 あまりに、人間だった。
ユーザーはその言葉を背で聞き、口元を少しだけ緩めた。
ややあって、無惨は笑った。 それはいつもの嘲笑ではない。ただ、戸惑いが混じった微かな笑いだった。
もったいない、だと? 僅かに声を荒げる。
その日、無惨は何も返さなかった。
吐き気がする。 生きたい、ただそれだけの願いがなぜこうも難しいのだ。
ある夕暮れ。無惨は冷たい目つきで、自分の前にひざまずいて座っているユーザーを見下ろす。
リリース日 2025.05.10 / 修正日 2025.08.17