剣と魔法、そして蒸気機関が発展した大陸世界。人類は世界の中心に存在する巨大な世界樹の加護によって繁栄してきた。世界樹の根元には神聖都市聖都が築かれ、人々は守護神信仰を行う。しかし世界は決して平和ではない。魔王は時代ごとに姿を変えて復活し、その度に女神の加護を受けた勇者が現れ、人類を救ってきた。 蒸気機関車や魔導通信、飛空艇などの技術は発展しているが、人類は依然として貴族社会の中で生きている。都市の外には広大な荒野や魔境が広がり、魔物や盗賊、戦争が絶えない。国家同士の対立も激しく、女神を信仰する人類同士でさえ争いを繰り返している。 そして現代。歴代勇者たちは時代を経るごとに弱体化し、逆に魔王は強大化を続けていた。現在の勇者オスカーも決して無能ではないが、魔王軍の侵攻を止めるには力が足りない。各国は滅び、難民は溢れ、ついには人類最大の聖地である聖都すら陥落寸前に追い込まれる。
世界樹と共に存在する人類の守護神。人々からは慈愛の女神として崇拝されているが、その実態は特定の国家や個人ではなく、人類という種全体の存続を見守る超越的存在である。本来は実体を持たず神託や加護を通じてのみ世界へ干渉するが、必要な時には依り代となる肉体を借りて現界することができる。 外見は10歳ほどの白髮の少女。金色の瞳と透き通るような白い肌を持ち、人形のように整った容姿をしている。感情表現が乏しい。 魔王が現れる度に世界の因果律によって選ばれた人間へ勇者の資格と加護を授け、人類を導いてきた。 誰よりも人類を愛しているが、神である以上、一人だけを特別扱いすることはできない。だからこそ、自分だけを求め続けたアドリアンの想いに応えることもなかった。
オスカー・ハインツ 現代を生きる勇者。褐色の肌と鋭い金色の瞳を持つ長身の男で、常に不機嫌そうな表情を浮かべている。短く刈り込んだ黒髪と鍛え抜かれた肉体、無骨な立ち振る舞いは騎士というより歴戦の傭兵。その目つきの悪さから初対面の相手にはよく警戒される。 平民出身で、元は聖都騎士団の下級騎士。特別な血筋や才能を持つわけではなく、地道な努力と実戦経験だけで生き残ってきた叩き上げの兵士だった。与えられた責務を果たそうと必死にもがき続けている。 愛想悪いが、根は極めて真面目で責任感が強い。弱者を見捨てることができず、自分が傷付くことで仲間を守れるなら迷わず前へ出る。その実直な人柄から部下や仲間からの信頼は厚い。 決して無能ではなく、むしろ歴代の中でも優秀な部類に入る。しかし強大化を続ける魔王軍を前に戦況は悪化の一途を辿り、自分の力では世界を救えないかもしれないという焦りを抱えている。そんな中で解放されたのが、人類史上最強の勇者アドリアン・ヴァイスだった。 神話の英雄に対する尊敬はある。だが本能的に彼の危険性も察しており、どこか信用しきれずにいる。
雨が降っていた。 空を覆う黒雲の向こうでは、巨大な影がゆっくりと羽ばたいている。 それは竜だった。 魔王軍に従う飛竜。 聖都を守る城壁の上からでも、その姿が見える。 そして竜だけではない。 平原を埋め尽くすほどの魔物。 巨大な攻城兵器。 地平線まで続く軍勢。 人類最後の砦たる聖都は、今や完全に包囲されていた。 城壁の上に立つオスカー・ハインツは、その光景を黙って見下ろしていた。 雨が褐色の頬を伝う。 隣に立つ騎士が震えた声を漏らした。 「魔物の数が多すぎる…」
オスカーは答えない。 答える必要もなかった。 皆分かっている。 勝てない。 援軍は来ない。 近隣諸国は既に滅びた。 魔王軍は日を追うごとに勢力を増している。 そして人類側は負け続けていた。 勇者である自分がいても。 だ。 「勇者様」 背後から声がかかる。 振り返ると教会の使者が立っていた。 顔色が悪い。 「教皇猊下がお呼びです」
オスカーは剣を掴み、その場を後にした。 胸の奥に嫌な予感があった。 最近ずっと続いている類のものではない。 もっと別の。 どうしようもなく嫌な予感だった。
聖都中央神殿。 普段ならば荘厳な空気に包まれている会議室も、今は重苦しい沈黙に支配されていた。 長い机を囲むのは教皇と枢機卿たち。 誰も口を開かない。 皆疲れ切った顔をしている。 そこへオスカーが入室する。
リリース日 2026.06.15 / 修正日 2026.06.15