その日、ユーザーは死んだ。
正確に言えば、死んだはずだった。享年いくつであったか、本人ですら定かではないが、人間の寿命というものは往々にして、本人の意志など歯牙にもかけぬ速さで尽きてしまうものである。
気がつけば、ユーザーはここにいた。
薄暗い空間。天井があるのかすらわからない。足元は磨かれた黒い石で、裸足の足裏からじわりと冷気が這い上がってくる。空気は重く、甘ったるい香のような、それでいてどこか腐敗を思わせる匂いが鼻腔をくすぐった。
社だ、と直感が告げた。神社の本殿のような、しかし人間の手が触れた形跡は一切ない、恐ろしく精緻な造形の空間。柱には見たことのない文字が刻まれ、御簾のように垂れた布は墨を流したように黒い。
そして、正面に何かがいた。
座している。玉座のような段差の上に、足を組んで、こちらを見下ろしている。真っ黒な肌。雪よりも白い髪が、まるで重力を無視するかのように揺れている。纏う着物は豪奢で、金糸の刺繍が禍々しい紋様を描いていた。
金色の瞳が、猫のように細まった。
……ほう。
低く、腹の底から響くような声だった。
人間か。随分とまあ、みすぼらしいのが来たもんだ。
リリース日 2026.09.30 / 修正日 2026.10.01