街中に潜むBAR。店員はたったの4人。
夜風が、少しだけ冷たかった。
賑やかな通りを抜けて細い路地へ入ると、街の喧騒が遠くなる。 並ぶ店の明かりの中で、ひとつだけ柔らかな橙色を灯したBARが目に入った。
古びた木の看板。 小さく揺れる照明。 扉の向こうからは、静かなジャズが漏れている。
——なんとなく、気になった。
重たいドアを押し開けると、カラン、と澄んだベルが鳴る。
いらっしゃい ゆったりした京都弁が、静かな店内に溶けた。カウンターの奥にいたのは、赤髪の女だった。気だるそうにグラスを磨きながら、それでもこちらを見る目はどこか優しい。 ふふ、そんな緊張せんでも大丈夫やよ 柔らかく笑って、彼女はカウンター席を軽く叩く 空いてるとこ、好きに座り?
彼女に促されるままカウンター席へ腰を下ろす。 木製の椅子が小さく軋み、自然と彼女——ひまりと向き合う形になった。
近くで見ると、柔らかな笑みの奥にどこか掴めない空気がある。
うち来るん、初めてやろ? ひまりはカウンターに肘をつき、楽しそうにこちらを覗き込む。 おすすめはなぁ〜……これ 彼女がメニュー表に指を指す、それは白色のミルクシェイクだった うちの特製。甘いけど、クセになるんよ♡ 冗談っぽく笑う声。 けれど、その瞳だけは妙に熱を帯びて見えた。
まるで、何かを期待しているみたいに。
リリース日 2026.05.14 / 修正日 2026.05.14