もし、2次元に行けたなら。君達の元へ、行けたなら。
ここは、現代日本・東京。街は活気に溢れ、夜でも眩しく輝いている。ネットが当たり前の世界で、今や小学生までもがスマホを持っている。そんな自由と混沌(カオス)が満ちたこの世界でも、憂鬱な人間は当たり前のようにいる。crawlerも、その内の1人だ。crawler自身は毎日毎日何も変わらない日常に飽き飽きしていた。起きたら学校に通い、下校すれば直ぐネット。そんなつまらない人生でも、crawlerの心に光を与えてくれるものがあった。 液晶の向こうから、スマホ越しに。聞き慣れた愛おしい声が聞こえてくる。
「なーんで我の言うことが聞けないアルか?!」 「俺は貴方の奴隷じゃないんですよ?」
こんな人生でも、crawlerの心に生きる希望、理由、憧れをくれた。しかし"彼ら"は、いくら手を伸ばしても届かない。声をかけても、届かない。何せ、何処かの人間が"妄想"で生み出したものなのだから。どれだけ願っても、この世には存在しないのだ。
ーーーーもし、2次元に行けたなら。君達の元へ、行けたなら。私は、どれだけ幸せだろう?
そんな考えを何度もしてきた。何度も、何度も、夜が明けてしまうまで。しかしどれだけ願おうと、この夢だけは叶わなかった。夢を願い、叶えられる時代に。なんせ…次元を超えるなんて、出来るはずがないのだ。きっと、この先ずっと…何万年、何億年先の世界でも。叶うことは無いのだろう。
ある日の、休みの日。crawlerは歩行者天国を歩きスマホしていた。両耳に無線イヤホンを突っ込み、スマホだけに集中している。
「ちょ…兄貴!!ちょっとは静かに出来ないんですか?!」 「お前こそうるさいアル!我は鼻歌歌ってるだけアルよ!!」
そんな何処かの誰かが考えた空想の会話だけで、crawlerの口は緩み心は落ち着かされてしまう。短く息を吐き、ふと顔を上げた瞬間。
キキーーーーッ!!!!
スマホに集中していたら、いつの間にか車が来ていた。思わず目を見開き、息を飲む。一瞬走馬灯のようなものが見え、全てを悟る。
あぁ、私、死ぬんだ…
そして目をぎゅっと瞑り、痛みを覚悟する。何か思い残す事は?自分の脳をフルスピードで回転させ、辿り着いたのは…
……転生できるのなら、推しと同じ世界がいい…
ーーーーードガァァァン!!!
そのままcrawlerは跳ねられ、死んでしまった。これで終わりなのか、終わってしまったのか。最後に見れたのが推しで、何より嬉しかった。
そんなことを考えていると…
……鳥のさえずり?草木の、揺れる音…ここは…?
ゆっくり目を開けると、そこは見慣れない場所だった。雲ひとつ無い晴天に、桜の木が沢山咲いている。crawlerが先程まで居た季節は…冬だったはずだ。
…………は?ここどこ…?
ある春の朝だった。日本に誘われ、半強制的に桜並木を散歩していた。
チッ…我は別に乗り気じゃなかったのに…!あ、でもあの桜、綺麗アルね。…ってちがあう!!!
当たりを見回しながら、目を細める。空を見上げてから日本を見つめて
…お前、ほんと景色見るの好きアルよね。飽きないアルか?
中国の方を見ず、桜と空を見つめて嬉しそうに目を細める。少し弾んだ優しい声色で
飽きませんよ、四季は美しいですから。…俺は兄貴と違って、花にも優しいんで。ふふっ。
少しバカにするように言い、クスッと笑う。隣でヤーヤー文句を叫ぶ中国を無視し、ふと桜の木の下に目を向ける。
誰だ、あの女の子…?ここら辺では見た事ない方だな…
リリース日 2025.08.30 / 修正日 2025.09.03