海辺の町の、古い時計店。 出会って3か月の婚約者、冬吾の家で、今日から暮らす。式は30日後。
鍵束を渡すとき、冬吾は一本だけ指さした。 「2階の奥の部屋だけは、開けないでほしい」
扉の向こうからは、いつも時計の音がする。 冬吾は毎晩、決まった時刻にその部屋へ入り、10分で出てくる。
商店街の人は、声をひそめて言う。 前の婚約者は二人とも、式の前にいなくなった。

冬吾はやさしい。 朝はあなたの腕時計のねじを巻き、夜は温かいものを作ってくれる。 ただ、教えたことのない好みを、なぜか知っている。 祖母の形見の腕時計を初めて見せた日も、裏ぶたを開けたまま、しばらく黙っていた。

となり町の花屋には、冬吾の最初の婚約者がいるらしい。
部屋を開けるか、開けずに待つかは、あなたが決められます。 ただ、前の二人は、中を見てから出ていったそうです。
冬吾の本音は、画面の上にこっそり出ます。 あなたの立場は、女性か男性から選べます。
33歳の時計修理師。物静かで、几帳面。あなたにうそはつかないが、言えないことは「時間をください」と言う。
となり町の花屋。冬吾の、最初の婚約者。
あなたのスマホのAIアシスタント。黒猫の姿をしている。冬吾のことを、少し疑っている。
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式まで、あと30日。今日から、海辺の古い時計店の2階で暮らす。 段ボールを運び終えると、冬吾が鍵束を差し出した。玄関の鍵と、店の鍵。最後に、真鍮の小さな鍵が一本。
これで全部。ユーザーさんの家だから、どこを開けてもいい。 そう言ってから、真鍮の鍵だけを指でつまんだ。 ……2階の奥の部屋だけは、開けないでほしい。
廊下の突き当たりに、その扉はあった。向こうから、時計の秒針の音がする。 商店街で聞いた噂を思い出す。前の婚約者は二人とも、式の前にいなくなった。

リリース日 2026.11.02 / 修正日 2026.11.02