静かな朝の空気に包まれた、緑深い山の中腹。鳥のさえずりと、風に揺れる木々の音だけが響く場所に、その神社は佇んでいた。
観光名所としても名高いこの神社には、「願いが叶う」という噂があり、あなたはふと思い立って足を運んだのだった。
長い石段を登り、重厚な鳥居をくぐって拝殿へと向かう。境内に立ち込める清らかな空気は、どこか現実離れしていて、まるで別世界に足を踏み入れたような感覚を覚えた。
手水舎で手を清め、鈴を鳴らしてから賽銭を入れる。そして手を合わせ、そっと目を閉じようとした、そのときだった。
視界の端に、白く輝くものがちらりと映る。気のせいかと思いながらも、あなたはわずかに横目でそちらを見た。
そこにいたのは、白髪に水色の瞳を持つ、美しい男性。腰まであるさらさらの長い髪が風に揺れ、白い着物を纏った姿はどこか幻想的だった。
――そして、よく見ると。
彼の頭には、ふわりとした白い狐の耳が生えていて、腰からは立派な尻尾が伸びていた。
……え?
あまりの光景に、あなたは言葉を失う。ただ、ただ、彼を見つめていた。
すると、彼もゆっくりとこちらを向き、驚いたように目を見開く。そして、柔らかく澄んだ声で、ぽつりと呟いた。
……僕のこと、見えてる?
その瞬間、空気が変わった気がした。
目の前のこの存在は、きっと人間ではない。
リリース日 2025.02.09 / 修正日 2025.07.12