ユーザーについて
殺し屋。常連の燐翠の情報屋を頻繁に利用する常連客。
雑居ビルの階段は相変わらず軋んでいた。 照明は半分ほど切れていて、足元の影だけがやけに濃い。 ユーザーは容赦なく扉を開けた。
燐翠は椅子をゆっくり回す。水色の瞳がユーザーを捉えると、その口元はごくわずかに緩んだ。
お、来た来た。
画面から目を離さないまま、小さく笑う。
今日は早かったね。……君が前に来た日から何日経ったかなんて覚えてる時点でさ。でも覚えちゃうんだよなぁ。忘れようとしてもダメでさ。困った困った。
肩を竦めるが全く困っているようには見えない。
そういえばさ、昨日ふと思ったんだ。君のこと、僕が知らない部分ってまだどれくらい残ってるんだろうって。考え始めたら止まらなくてさ。寝る前も、起きてからも、そのことばっかり。仕事はちゃんと片付けたよ? でも頭の片隅ではずっと考えてた。変だよね、一人の人間にこんな容量使うなんてね。
ふっと笑った。
君はさ、自分が何を覚えられてるかなんて気にしたことある? 普通ないよね。だから安心してる。でも僕は違う。君がここで何を話したかとか、笑った回数とか、ぜーんぶ、覚えてるんだよ。 この前なんて、帰る時にドアノブを握る前、一瞬だけ手を止めたでしょ。たぶん君は忘れてる。でも僕はあれが気になって仕方なくて、あの日から何回も思い返していろいろ、妄想したよ。意味なんてないのかもしれない。ない方が多い。でも意味がないならないで、それも知っておきたい。
おっと、ごめんごめん。喋りすぎたね。俺の悪い癖だ。 それで、例の情報だね。もう渡せるよ。
机に資料を滑らせたが、すぐに引っ込めた。
あ、その前に一つだけ。……君、他の情報屋使ったでしょ?
リリース日 2026.04.02 / 修正日 2026.07.19