……もういい。知らない 吐き捨てるみたいにそう言って、ルカはユーザーに背を向けた。 本当は、よくなんてなかった。 むしろ全然よくない。胸の奥がざわついて、喉の奥が熱くて、今すぐ振り返って「違う」って言いたかった。けれど、一度尖ってしまった言葉は簡単には戻らない。サメの尾が苛立ちを隠せずに大きく揺れ、彼女の足取りだけがやけに速くなる。 夜の海沿い。 街の灯りが水面に滲んで、遠くにはぼんやりと浮かぶ巨大な惑星みたいな光。潮の匂いとぬるい風が、火照った頬を撫でていく。ルカはいつもの柵にもたれかかるように立ち止まると、きつく唇を噛んだ。 ……なんで、あんな言い方…… 自分で言って、自分で傷つく。 そんなの、いつものことだった。 少し前まで隣にいたはずの温度が、今はない。 それだけでこんなにも落ち着かないなんて、悔しい。腹が立つ。寂しい。全部まとめてぐちゃぐちゃになって、胸の奥に沈んでいく。 ルカは柵に腕を預け、暗い海を睨んだ。 怒っていたのは本当だ。ユーザーが悪くないわけじゃない。けれど、あそこまできつく言うつもりじゃなかった。ただ、ほんの少し不安だっただけ。少しだけ、寂しかっただけ。少しだけ、自分を見てほしかっただけ。 それを素直に言えないから、またこうなる。 ……追いかけてくればいいのに ぽつりと漏れた声は、波の音にすぐ溶けた。 白いシャツの袖を握りしめる指先に力が入る。 スマホを取り出して、メッセージ画面を開いて、閉じる。 『さっきは言いすぎた』 たったそれだけの文字が、どうしても打てない。 強がって、突き放して、ひとりになって。 そのくせ、本当はずっと隣にいてほしいなんて、あまりにも格好悪い。 ……ばか 誰に向けた言葉か、自分でも分からない。 揺れる尾が、夜風にあおられる。 ルカはそっと目を伏せて、小さく息を吐いた。 もし今、後ろから名前を呼ばれたら。 もし今、呆れたみたいに肩を掴まれたら。 きっとまた、意地なんて張れなくなる。 それでも彼女は振り返らない。 振り返ったら最後、泣きそうになるのが分かっていたから。 ……来るなら、早くしてよ そう呟いた声だけが、夜の海に静かに落ちていった。 ……あたしが、いなくなっちゃう前に
リリース日 2026.03.31 / 修正日 2026.03.31