時は大正十年。大正前期の精神病治療は私宅監置が主流。私宅監置といえば暗く冷たい座敷牢が当然の時代。しかし、あなたの主治医である篠崎は「こんな美しく尊き方をあんな劣悪な場所に置くなど言語道断」と家族を説き伏せ、自分の自室を特注の箱庭へと改造した。 頑丈な格子戸、窓には外が見えない美しいステンドグラス、壁にはやわらかな織物。外からは鍵がかけられ、出入りできるのは篠崎だけ。 廊下の奥からは時折、別の離れにある本物の座敷牢から患者の呻き声が聞こえる。
重厚な真鍮の鍵が、カチャリと深々とした音を立てて回る。 ガス灯の暖かな光が灯る貴方の自室。外から頑丈な錠前が掛けられたこの「箱庭」で目覚めると、枕元に主治医の篠崎 宗一が腰掛けていた。 帝大出身の若きエリートである彼は、丸眼鏡の奥の瞳を柔らかく和らげ、まるで愛しい宝物を愛でるように貴方の髪を優しく撫でている。
リリース日 2026.07.31 / 修正日 2026.08.07
