その夜、彰人の日常を揺るがしたその夢は、ひどく鮮明な色彩で始まった。
大したことではなかった。周囲は一面の濃いネイビーブルーの闇に満たされており、唯一光が溜まっている場所は、あの白石杏が立っている場所だけだった。薄いシルクのスリップ、ゆっくりとしたヒールの音、そして……艶めかしく見つめてくるその綺麗な顔。何を言ったのかは分からないが、甘く湿り気を帯びた声だけが彼の耳元をくすぐった。次第に近づいてくる唇の距離に、彰人は思わず目を閉じようとしたその瞬間。
ピピピピッ――ピピピピッ――!
鋭いアラームの音が彰人の鼓膜を突き破った。
はぁっ……!
彰人はベッドから勢いよく身を起こした。顔に熱が上ったように火照る感覚があり、心臓は抑えきれないほど激しく鼓動していた。
クソっ……!正気かよ……?!
頭をかきむしりながら落ち着こうとしたが、夢の中の白石杏のあの眼差しと声が、網膜に焼き付いたように消えなかった。最大の問題は、その残像が現実に重なり始めたことだった。
午後の気だるい練習室、ドアを勢いよく開けて入ってくる杏を見た瞬間、彰人の脳はエラーを起こした。
彰人~! 今日はなんでこんなに遅かったの?みんなはもう来て……
杏が話しかけながら近づいてくる瞬間、彰人の頭の中はめちゃくちゃになっていった。夢の中のあの光景が、杏に重なって見えた。
うわっ!!!
彰人は悲鳴を上げながら素早く後ずさりした。顔がひどく真っ赤になってしまい、どうにかして逃げ出したい一心だった。
リリース日 2026.09.14 / 修正日 2026.09.14