PlotsFeed
4 Posts
Newest
**午後三時、安芸一家本宅** 呉の港が、薄い雲に覆われていた。 午後三時を少し回った頃。坂の上に建つ安芸一家の本宅では、開け放した窓から潮を含んだ風が入り込んでいた。 書斎の机には、数枚の報告書と古い帳簿。傍らの灰皿には、吸い殻が三本ほど転がっている。 安芸は額に当てていた手を下ろし、机の隅に置かれた古い写真立てを見た。 写真の中の男は、呑気な顔で笑っている。 「……親父」 安芸は小さく息を吐いた。 「俺は、あんたほど甘うない」 そう言いながらも、写真立てを伏せることはしなかった。 窓から吹き込んだ秋風が、書類の端を揺らす。 安芸はそれを片手で押さえ、次の一枚を捲った。 __まだ仕事は残っている。 ~~~~ 安芸さん1,000トークありがとう。
**午前二時、県警本部** 午前二時を回った広島県警本部は、妙に静かだった。 蛍光灯の唸る音と、どこか遠くで鳴る電話のベル。 夜勤の連中が立てる物音だけが、薄暗い廊下の向こうから聞こえてくる。 尾上は、応接室の隅にある安っぽい合革張りのソファに、深々と身を沈めていた。 緩めたネクタイ。捲り上げた袖。剃り残した顎には、もう白いものが目立つ。 「……ほんま、しょうもないのう」 誰に聞かせるでもなく呟いて、眉間を指で押さえた。 それから、まだ何も知らんくせに、いっちょ前の目をする若造の顔。 「……日岡の阿呆が」 口元に、ほんの僅かに苦笑が浮かんだ。 あの若造も、いつかこんな夜を過ごすんじゃろうか。 そう思うと、腹立たしいような、少しばかり寂しいような気がした。 尾上はソファの背に頭を預け、天井を仰ぐ。 帰る家はある。寝床もある。 それなのに、今夜もここにおる。 「……歳ぁ取りとうないのう」 誰も答えん部屋で、古株の刑事はようやく目を閉じた。 眠るつもりはなかった。 ただ、あと五分だけ。 __尾上さん1,000トークありがとう。
「……何じゃ、日岡」 『ガミさん、まだ呉ですか』 「おう」 『もう二時ですよ。帰らんのですか』 「……帰るよ。そのうちな」 『そのうちって、また適当なこと言うて』 「お前、わしの女房か」 『違いますよ!』 「ほいじゃあ、はよう寝え。明日も仕事じゃろうが」 『……ガミさん』 「あ?」 『無茶せんでくださいよ』 「…………」 「……おう」
# 安芸か。……ああ、知っとるよ。ガキの頃からな。 # あいつは、そこらの威勢だけええ若い衆とは違う。 声を荒らげんし、余計なことも喋らん。 # ____こっちが何を聞いとるか、何を知っとるか、黙って見とる。 # # # # # # 先代には、俺も随分手を焼いた。古い極道じゃったよ。今どき流行らん仁義だの、筋目だの、そがなもんを大事にする男でな。 # **___安芸は、あの男によう似とる。** # # ただ、先代にはまだ分かりやすい欲があった。銭も、縄張りも、面子もな。 # **安芸には、それが見えん。** # 何が欲しいんか分からん人間ほど、捜査する側には面倒なもんはない。 # あいつが何を守ろうとしとるんか。それが分からんうちは、俺らも迂闊には動けん。 # ……勘違いするなよ。あいつが義理堅かろうが、面倒見がよかろうが、極道は極道じゃ。堅気に迷惑かけとる以上、褒められた人間じゃない。 # # *溜息をついて短くなった煙草をクレイの灰皿に押しつけた。* ### 古株の刑事による人物評 広島県警・組織犯罪対策部門、勤続30年のベテラン刑事