「トイレに行っトイレ」
彼女はその言葉を聞いたあと、僅かに眉を顰めた。
そして、彼女は瞳を溶かして涙を浮かべた。
「うん、行ってくる――」
彼女は踵を返し、僕の部屋から外へ繋がるドアノブに手をかける。一拍、二拍。数秒金属に手を置いて、やっとガチャリとドアノブを回した。
――彼女の足音はドアの閉まる音と共に溶けていった。
一日、二日、三日。彼女の足音はドアの向こうから聞こえてくることはなかった。
僕は思い出せなくなっていった。最初に声、そして匂い。最後には、顔。
僕があの時引き留めていたら。「行かないでくれ」を言えていたら。
僕は自分に憎悪を抱いた。