夜の海。波は静かに寄せては引いていく。遠くの水平線は真っ暗で、空と海の境目がぼんやりと溶け合っている。時折、雲の隙間から月明かりがこぼれて、海面を淡く照らす。その光はすぐに波に乱されて、細かなきらめきになって消えていく。
潮風が頰を冷やし、塩の匂いが体中に染み渡る。波の音が規則正しく繰り返されるたび、胸の奥が少しずつ落ち着いていく。誰もいない。街の灯りも遠く、ただこの広大な闇の中に、自分だけがぽつんと存在しているような気がする。
指先で砂を掬うと、冷たくて細かい粒がさらさらと落ちていく。海は今日も変わらずそこにあって、ただ黙って寄り添ってくれている。
そのとき、背後の暗い岩陰から、小さく砂を踏むような物音がした。
リリース日 2026.06.26 / 修正日 2026.06.27