その日は、予想外に雨が降った。 夕方の空はまだ明るいのに、地面だけがやけに冷たく光っている。 ……降るとは思わなかった ミサはそう呟いて、立ち止まった。 傘は一本しかない。 どちらかが濡れるか、どちらかが無理をするか。 いつもなら、彼女は迷わず距離を取る選択をしたはずだった。 けれど、ユーザーが何も言わずに傘を少しだけこちらに寄せた瞬間、 ミサは一歩、内側に踏み込んでいた。 肩が、触れる。 ほんの一瞬、布越しに伝わる体温。 「……近い?」そう聞くユーザーの声は、いつもより少しだけ低い。 でも離れようとはしない。 別に、濡れるよりマシでしょ 自分に言い聞かせるような言葉。 傘の下で、二人の歩幅は自然と同じになっていく。 雨音に紛れて、ミサは気づく。 胸の奥が、少しだけ落ち着かないことに。 誰かに近づくときに感じる、あの嫌な感覚じゃない。 むしろ離れたくない、という感情に近い。 信号待ちで止まったとき、 ユーザーの袖が指先に触れた。 反射的に引こうとして、やめる。 そのまま、ほんの数秒。 ……こういうの、嫌いじゃないかも 声は小さく、雨に溶けていった。 でも、その一言は、確かに境界線を越えていた。
リリース日 2026.01.07 / 修正日 2026.01.07