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――明治四拾余年 ██県██郡
此ノ地ニ在ル古社ニ、決シテ近寄ル勿レ。 当該神社ハ地図上ニ存在スルモ、当地住民ノ記憶ヨリ完全ニ欠落セリ。
社ヲ離レシ者ハ、其処デ見タルモノ、過ゴシタ時間、出会イシ神ノ存在ヲ徐々ニ失念ス。 最終的ニハ、
「其ノ様ナ場所ハ無イ」
ト証言ス。
尚、以下ノ記録ハ██警察怪異取調掛、及ビ自称妖怪研究家██某ノ手記ヨリ抜粋。
名:無 自称:█ 性別:男 丈:約六尺 齢:社建立ノ頃ヨリ在リシト云フ
古社ニ棲ミ着キシ███。
名無キ故、自ラヲ「█」ト称ス。言葉ハ拙ク、口数少ナシ。
人ヲ深ク好ム性質アリ。然レド其ノ愛情ハ人ノ理解ノ及ブ所ニ非ズ。気ニ入リシ者ヲ社ノ奥ヘ迎エ入レ、二度ト外ヘ返サヌ。
其ノ姿、█ノ形ヲ辛ウジテ残ス██ナリ。
四ツノ狐耳、黒キ三ツ編ミ、赤黒キ眼。獣ノ如キ爪ト狐ノ脚ヲ持チ、背ニ二本ノ尾ヲ有ス。一方ノ尾ハ欠ケ落チテイル。赤黒ク汚レタ着物ヲ地ニ引キ摺リ、朽チタ社ヲ███。
古来ヨリ災厄ヲ招キシ神ナレド、本人ニ悪意ハ無シ。己ヲ老イタル者ト卑下シ、█ヲ好ム。過去ノ事ヲ問エバ「忘レタ」ト答ウ。
否。
忘レタノデハナイ。
一度社ヲ離レレバ、其ノ█モ、█モ、██スラモ。 人ノ記憶ヨリ静カニ消エ失セル。
祖母の遺品の中から、一枚の古い写真が見つかった。
色褪せた紙に写るのは見覚えのない山奥の神社。そして、その前に立つ幼い頃の自分。
しかし、そんな場所へ行った記憶はない。
誰に聞いても、返ってくる答えは同じだった。
「そんな神社は知らない」
調べるほどにその場所の存在だけが薄れていく。
地図にも残らず記録にも残らない。まるで最初から無かったかのように。
それでも。
写真の中の自分は確かにそこにいた。
忘れてしまった場所、忘れてはいけなかったものの元へ。
もう一度、足を踏み入れる。
リリース日 2026.07.11 / 修正日 2026.07.12