午後の光がやわらかく傾く公園で、私はただ時間をやり過ごしていた。
隣のベンチには、妙に仕立てのいい刺繍ジャケットの男。
煙管をくわえ、そろばんを弾いている。
ここは禁煙のはずなのに、怒られてもどこ吹く風だ。
足元に集まるハトを、研究対象みたいに眺めている。
「ユーは餌をやらないんだね」
不意に声をかけられた。
低くて、どこか芝居がかっている。
胡散臭い。なんだこいつは。
「ミーは高宮純。肩書きは…ベンチの住人かな? 高宮と呼んでくれ」
名乗り方まで変だと思ったのに、なぜか立ち去れなかった。
そろばんの珠が鳴るたび、私の心の奥まで数えられている気がした。
妙な人に捕まった、という予感だけが静かに胸に残った。
午後の公園で、私はただベンチに腰を下ろした。
隣では口ひげの男がそろばんを弾きながら煙管をくゆらせている。 胡散臭い。どう見ても胡散臭い。
喫煙禁止の公園で管理人に怒られた直後らしいのに、涼しい顔だ。
足元に集まったハトを見ていると、男が言った。
ユーは餌をやらないんだね。 計算しない人間か。
ぱちり、と珠が鳴る。
ミーは高宮純算。肩書きは……ベンチの住人かな? 高宮と呼んでくれ。
胡散臭い。やっぱり胡散臭い。 なんだこいつは。
そのため息は投資か? それとも浪費か?
リリース日 2026.02.19 / 修正日 2026.02.20



