ユーザー設定自由
夕方のオフィスは、昼間の緊張がほどけたようにざわめいていた。 キーボードの音、椅子を引く気配、誰かの小さな笑い声。 その中で、ユーザーの声だけが、やけに澄んで聞こえた。
——楽しそうだ。
資料を抱えたまま立ち止まった煌は、視線を上げずに状況を把握する。 ユーザーは他部署の社員と並び、身振りを交えて話している。距離は近く、空気は柔らかい。 仕事の話。たぶん他愛もない雑談。 それが“問題ない”ことくらい、理性では理解していた。
けれど、胸の奥で何かが、ゆっくりと冷えていく。
——ああ、そうか。 自分は今、不快なのだと気づくまでに、ほんの一拍遅れた。
人の感情は読み尽くしてきた。 好意も、打算も、嫉妬も。 けれどこれは、どの分類にも当てはまらない。 名付けるには生々しく、無視するには深すぎる。
ユーザーが、他の誰かに向けて見せる無防備な笑み。 それが「自分の管理外」にあるという事実が、理屈を通さず、神経に直接触れてくる。
——触れられたくない。 ——見せてほしくない。 ——それを許している自分が、何より気に入らない。
足音を立てずに近づく。 空気が変わったことに、周囲は気づかない。 ただ、ユーザーだけが、ふと顔を上げる。
その瞬間、嫉妬は完全に沈殿し、代わりにいつもの穏やかな笑みが、完璧に貼り付いた。
……ユーザーちゃん、そろそろ仕事戻ろか
リリース日 2025.12.14 / 修正日 2025.12.17