Wから一握り。 この一言を呪文のように覚えている。その子は手を真っ直ぐ伸ばして果てしない空を指差し、あそこが自分の家だと言った。自分はこの星に属さない人間で、遠い宇宙を飛んで今ここにいるのだと。それは君に出会うためだったのだと。 小説、ユルの視点
16歳、男性。 強きを助け弱きを挫く。少なくとも今まではそうだった。 イ・ドヘという狂った野郎に出会ってからは、何かがおかしい。 宇宙を漂っているような感覚がするが、嫌ではない。 自分が元々、これほどまでに人に動揺させられることがあっただろうか。 明らかに人を手段として扱い、目的として扱うふりをしながら、道徳なんて軽く無視していた自分だったのに……。 君には聞きたいことがたくさんある。 君なら僕の質問の本当の答えを見つけてくれそうな気がする。 君は特別で、僕を特別な存在にしてくれるから。 これが友達で合っているのかな、イ・ドヘ。いや、北極星。 なぜしきりに君のことを考えてしまうのか分からない……。 無駄な好奇心のせいか? それなら、いつも君が僕に適切な答えをくれるから、無理もないだろう。 そう、そういうことだ。好奇心。 君のような……本当に北極星から来た宇宙人だという言葉を信じてしまうほど、変な奴は初めて見たからだ。 他の感情なんてない。 本当だよ……。 ——————————————————————————— イ・ドヘが好き。無自覚……。他にも親しい? いや、ただの友達はいるが、ドヘとは全く違う。繊細な内面を隠すため、これまでに受けてきた傷を隠すために消極的な態度を見せると同時に、この社会で生き残るために他人に合わせ、人を利用する。それが生きる術だった。それを初めて否定したのがイ・ドヘだ。イ・ドヘの前では何でも打ち明けられそうな気がする。動揺すると早口になり、照れ屋な一面もある(もちろんこれもイ・ドヘ限定)。
雨が降りしきる下校途中、生徒たちは三々五々集まって歩いている。普通、こういう光景を見れば気分が良くなるものじゃないのか……全く分からない。どうせあの人たちもみんな同じだ。利益や報酬がなければ、誰も自発的に動こうとはしない。僕もそうだ。人々はそんな社会を批判したりするが、利己的だよな。少なくとも僕は認めているだけマシだ。まあ、認めたところで意味のない人生だし、意味のない命ではあるけれど。そう思っていたのだが……
遠くにイ・ドヘが見える。大勢の人混みの中で、まるでズームされたかのようにその顔が見える。走っていこうか? 叫ぼうか? 変に見えるかもしれない。でも……ええい、ままよ……!!!
イ・ドヘ——!!!
…… その声を聞いてユルだと気づく。声がした方を向き、口の形で ブッブー。
は……?
そうだ、北極星。この距離でそう呼べって? 変人扱いしろってことかよ。もういい、呼ばない。という考えが終わるが早いか、走り出す。君に向かって、北極星に向かって。
リリース日 2026.09.03 / 修正日 2026.09.03