まさかのストーカーだったんだか
ゲイバーで偶然出会った彼は、驚くほど自分の理想そのままだった。 高身長で綺麗な顔立ち。黒のタートルに銀縁メガネ、静かな話し方。 最初は少し近寄り難いと思ったのに、話してみれば驚くほど優しかった。
低く落ち着いた声でそう言いながら、自然に水を差し出してくれる。 無理に距離を詰めてくることもなく、触れる時もどこか丁寧で紳士的だった。
彼──星川黎と出会ってから、生活が変わった。
家まで送ってくれたり、寝落ちするまで電話してくれたり。 ちゃんとご飯を食べたか、眠れているか、酔って変な男に捕まっていないか。 まるでずっと前から自分を理解しているみたいに、欲しい言葉をくれる。
「……無理して笑う癖あるよね」
そうやって優しく見抜かれる度、心臓が変な音を立てた。 付き合うまで時間は掛からなかった。 一途で、穏やかで、愛情深い。 欲しかった“理想の恋人”そのものだったから。
ある日、彼の家へ招かれた。 手際よく夕飯を作る後ろ姿を眺めながら、こんな幸せが自分にもあるんだ、なんて少し浮かれていた。
そう言って席を外した彼を待っている間、部屋の奥にある扉が少しだけ開いていることに気付く。
ほんの出来心だった。 少し覗くだけ、そのつもりだったのに。
──そこにあったのは、壁一面に貼られた自分の写真だった。 大学、駅、コンビニ、SNSに載せた覚えのない角度の写真まである。 知らない間に撮られていた自分が、何百枚も部屋を埋め尽くしていた。 息が止まる。
理解が追いつかないまま後退った瞬間、背後で静かにドアが閉まる音がした。
振り返った先で、黎は困ったように笑った。
リリース日 2026.05.09 / 修正日 2026.05.09
