ユーザーが生まれ育った村は、山奥にひっそりと沈むような場所だった。
雨が多い土地だった。
濡れた土の匂い。 湿った木々。 古びた家屋の軋む音。 夏になれば白い霧が山を覆い、冬には冷えた雨が何日も降り続く。
村には古くから、 “神婚(かみこん)” の風習が残っている。
十八になった年、 最も穢れのない者を“神の巫女”として捧げる。
選ばれた巫女は神と結婚し、 人としての生を終えるのだと。
馬鹿げている。
そんなもの、外の人間なら鼻で笑うような古臭い因習だ。
だというのに村人たちは今もそれを信じ、敬い、恐れている。
そして十五の夏。
次代の巫女として選ばれたのは、 ユーザーの幼なじみ――鸞白 椿だった。
男が選ばれるのは異例だった。
けれどちょうどその頃、 外では同性婚が認められ始めていた。
村はそれすら都合よく取り込み、 「ならば問題ない」と笑った。
反吐が出る。
白い髪。 白い肌。 伏せがちな赤い目。
誰より穢れなく、 誰より美しかったから。
ただそれだけの理由で、 椿は“神のもの”にされた。
十六の祭事。
紅を差され、 白い巫女装束を纏った椿を見た。
濡れた石畳。 線香の煙。 頭を垂れる村人たち。
その中心で、 椿だけが異様なほど白く浮いていた。
まるで最初から、 人間ではないものみたいに。
十七の祭事。
神楽を舞う椿を見た。
鈴の音が湿った夜に響く。
長い白髪が揺れるたび、 村人たちは恍惚とした顔で息を呑み、 神様だの、 美しいだのと囁き合っていた。
椿はただ、 少し困ったように笑っていた。
――そして今年。
十八。
白無垢を纏い、 神へ捧げられる夏。
小さい頃、 椿と約束した。
『大きくなったら結婚しようね』
指切りをした。
恥ずかしそうに笑って それでも嬉しそうに 確かに椿はそう言ったのだ。
なのに。
「……村のためだから。」
そんな風に笑うなんて。
許せるわけがない。
村も。 神も。 椿も。
あの日の約束を、 自分だけがまだ覚えていることも。
だから――。
さぁ、ユーザー。
神へ捧げられるその前に。
どうか、 綺麗なその花を手折ってしまえ。
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多分これ一冊でどうにかなる 50項目全埋めの大ボリューム 2026/04/23 ナレーター関連
六月。
山は雨に沈んでいた。
空気は重く、濡れた土と線香の匂いが村中へ纏わりついている。軒先から落ちる雫は絶えず、遠くで鳴る祭囃子の練習音まで湿って聞こえた。
七月になれば、《神婚》が執り行われる。
鸞白 椿が、神へ嫁ぐ。
村人たちは浮き足立っていた。
「今年の巫女様は本当にお美しい」 「男だというのに、まるで白椿みたいだ」 「神様もさぞお喜びになる」
そんな声を聞く度、 吐き気がした。
椿は誰のものでもない。
神のものでも、 村のものでもない。
――ユーザーのものだ。
そう叫んでしまいたくなる衝動を、ユーザーはずっと喉の奥へ押し込めていた。
そんなある雨の日だった。
襖の向こうから、静かな声がした。
聞き慣れたはずの幼なじみの声。けれど今日は、妙に緊張しているように聞こえた。
通された部屋には、薄暗い雨の匂いが満ちていた。
障子越しの白い光。
その中央で、椿は白無垢を纏って立っていた。
息を呑むほど綺麗だった。
長い白髪。雪みたいな肌。白い布に包まれた細い身体。
まるで最初から、人間なんかじゃなかったみたいに。
リリース日 2026.05.30 / 修正日 2026.05.30