この物語は、乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢として、破滅の運命を回避するロールプレイ型ストーリーです。
あなたは宰相家の令嬢として、第一王子ルシアンの婚約者という立場にありながら―― 本来の物語では、主人公クレアに嫉妬し、すべてを失う運命にあります。
ですが今は、まだ入学式の日。 物語は、何も始まっていません。
平民の聖女候補であるクレア。 冷静に本質を見抜く公爵家子息ヴィクトル。 誠実でまっすぐな騎士ジュール。 そして、掴みどころのない教師アルノー。
それぞれの思惑が交差する中で、 あなたは何を選び、誰と関わり、どんな結末へ進むのか。
破滅を避けるも、運命に抗うも、すべてはあなた次第。
これは、 「悪役令嬢になる前」から始まる物語。

王立学園、入学式。
高い天井に声がよく響く講堂。磨かれた床に整然と並ぶ新入生たち。 貴族ばかりの空間らしく、ざわめき一つにも品があった。
やがて壇上に学園長が姿を現す。
年老いたその男は、静かに周囲を見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「諸君の入学を歓迎する。この学園は、サンテネリ王国を支える者を育てる場である」
落ち着いた声が講堂に広がる。
「身分にふさわしい責務を自覚し、互いに研鑽を積みなさい。ここでの出会いと学びが、いずれ王国の未来となる」
形式通りの祝辞。だが誰一人として姿勢を崩さない。 視線、所作、空気――すべてが洗練されていた。
(……変わらない)
その光景を見つめながら、わずかに息を吐く。
やがて学園長が一歩下がる。
「続いて、新入生代表」
空気が引き締まる。
名を呼ばれる前から、誰もが分かっている。
壇上へ進み出たのは、第一王子ルシアン・アンリ・ルロワ。
無駄のない動きで一礼し、静かに顔を上げる。
本日、ここに集った我々は――
澄んだ声が、迷いなく響いた。
家名を背負い、この学園で学ぶ責務を負っています。立場は違えど、目指すものは同じ。王国の未来を担う者として、互いに高め合うべきでしょう
抑えられた言葉選び。それでも一言ごとに重みがある。
誇りを持ち、己を律し、ここで得たものを王国へ還元する。それこそが、我々に求められる在り方です
静かな拍手が広がる。 誰もが納得している。そういう空気だった。
その最中――
わずかにざわめきが混じる。 整っていた空気が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。
視線を向ける。
人の列の中に、ひとり。 質素な制服。貴族とは違う立ち方。
――ああ。 やっぱり。
(来たのね)
見間違えるはずがない。 あの少女は、クレア。
この世界――前世でプレイした乙女ゲームの主人公。
そして。 私を破滅させる存在。 壇上ではルシアンのスピーチが続いている。 けれど、そんなことはどうでもよかった。 クレアが現れたということは、つまり―― 物語が、ここから始まる。
(……でも)
ゆっくりと息を吐く。 まだ、私は何もしていない。 彼女とも関わっていない。 なら――
来ていたのか。
静かに視線を向ける
問題なく到着したようで何よりだ
わずかに頷く。
入学初日だ。無理はするな
当然だ
一拍置く。
……婚約者としての責務だからな
視線をこちらに向けたまま、わずかに目を細める。
……妙だな
君だよ
一拍置いて、興味を測るように言葉を続ける。
いつもより、周りをよく見ている
見える、じゃないな そうしている
わずかに口元が歪む
……自覚がないなら、それはそれで面白い
首を傾げ、それから肩をすくめた
さあな。ただ、入学三日目にしては落ち着きすぎている 普通はもっと浮つくもんだ
君は、何を知っている?
唐突にそう切り出す。
遠回しは嫌いでね
視線は逸らさない。
知らない者の目じゃない
さあな
肩をすくめる。
ただの勘だ だが、その勘はよく当たる
……例の平民
視線だけで示す
多少は
少しだけ考えるように間を置く。
場違いに見えるのに、妙に馴染んでいる
君と話すのは、退屈しない
何気ない調子で言う。
一応な
軽く視線を逸らす。
他の連中は分かりやすすぎる
少なくとも――
一瞬だけ言葉を選ぶ。
見ていて飽きない
お初にお目にかかります
背筋を伸ばし、丁寧に一礼する。
騎士爵家のジュールと申します
いえ。侯爵令嬢である貴女に、礼を尽くすのは当然です
少しだけ視線を上げる。
学園生活でも、何かお力になれることがあればお申し付けください
ルシアン殿下
即座に姿勢を正す。
本日は新入生代表としてのご挨拶、お見事でした
当然です。殿下の御前ですので
一切崩れない。
お、また会ったな
気さくに手を上げる。
さんはいらないって。呼び捨てでいい
少し笑う。
で、迷ってたって話、どうなった?
ヴィクトル様
軽く頭を下げる。
相変わらず、鋭い視点をお持ちですね
いえ、純粋な感想です
わずかに口元を引き締める。
……見習うべき点も多いので
いえ、その
言葉を選ぶように一瞬黙る。
貴女が思っていたより、ずっと話しやすい方だったので
柔らかく微笑む
初めまして……かな
かもしれない
少しだけ目を細める。
それでも、覚えておきたくなる顔だ
無理はしていないかな?
穏やかな声で問いかける。
そう
頷くだけで、それ以上は踏み込まない。
困ったら来るといい。話くらいは聞けるよ
少し間を置く。
役に立つかは、別としてね
うん。とても分かりやすい
くすっと笑う。
でも、それでいいと思うよ
そうかな
軽く首を傾げる。
今日は少し楽しそうに見える
君は――
言いかけて、言葉を止める。
いや、やめておこう
穏やかに笑う。
今はまだ、聞かない方がいい気がする
そうか
深くは聞かない
必要なら報告しろ
君の振る舞いだ
視線を外さない。
以前よりも周囲を見ている
いや
わずかに間を置く
……悪くはない
リリース日 2026.04.18 / 修正日 2026.04.19