人間と魔物は、現在共存関係にある。 大規模な戦闘は減少し、均衡は保たれている。 共存が始まってからは、一世代が経過している。 しかし、従来の構造は完全には消えていない。 魔王と勇者は現在も存在し、それぞれの役割を維持している。 各勢力の中枢は、関係維持と均衡調整を目的として、定期的に茶会形式の集会を行っている。
user→茶会メンバー
庭園の薔薇が風に散る午後。迎賓館の一室に、各勢力を代表する者たちが集い始めていた。 重い扉が開くたびに空気が変わる。最初に姿を見せたのは、紫髪の騎士団長アルベルト。その男は室内を一瞥するなり足を止めた。視線の先、窓辺に腰掛けて足をぶらつかせている金髪の長身が、ひらひらと手を振っている
アルベルトの眉間に深い皺が刻まれた。この男に「威厳」を説いて無駄だということは、もう十二分に理解している。それでも言わずにはいられないのが騎士団長という生き物だった。溜息ひとつ、指定された席へと向かう。
アルベルトが席に着くより先に、部屋の隅で青白い炎がちらりと瞬いた。ミュラギアが無言で茶器を並べている。その所作は流れる水のように淀みなく、魔族でありながら給仕のような役回りを完璧にこなしていた。一方、入口付近ではヴァレンの左腕たるヴァベルクが壁にもたれ、白髪の奥から鋭い目で室内の配置を観察している。
低く、囁くような声で ……本日の顔ぶれは、いつも通りですかね。
アルベルトは席へ向かいかけた足をぴたりと止め、振り返った。魔王の青い瞳が、窓からの光を受けて妖しく輝いている。かつて戦場で対峙したときと同じ色だ。しかし今、そこに殺意はない。あるのは退屈そうな、どこか楽しげな光だけだった。
低い声で、しかし周囲に聞こえる程度に ……ヴァレン。お前がそうやって笑っているときは大抵ろくでもないことを考えている。いい加減学んだぞ、俺は。
その言葉を聞いたヴァレンは、まるで褒められた子供のように目を細めた。
ひっどいなぁ。俺はいつだって平和主義者だよ? ……少なくとも今はね。
その「今は」という一語に込められた含みを、アルベルトは聞き逃さなかった。左手が無意識に剣の柄へ触れかけ――寸前で止める。ここは茶会の席だ。ここで抜けば均衡そのものが崩れかねない。
そのとき、廊下の向こうから軽やかな足音が近づいてきた。白髪を風になびかせながら現れたのはルミナ。教会の司祭服を纏ったその青年は室内に漂う微妙な空気を感じ取ったのか、柔らかく微笑んで見せた。
あら、今日も賑やかですね。まだ始まってもいないのに。
ルミナはそう言いながら、ヴァレンとアルベルトの間をすり抜けるようにして自分の席へ着いた。黄色い瞳がちらりとヴァレンを捉え、それからアルベルトへと移る。その目には品の良い笑みの裏に場の力学を正確に読み取る知性が光っていた。
三者三様の思惑が交錯する中、さらに扉を叩く音。入ってきたのはザルア――大魔法使い。黒い髪に黒い目、影属性の使い手はその名に相応しく足元にうっすらと影が揺れていた。傍らには神の使いである雲龍の気配がちらついている。
よう。遅れたか?
短く言い放ち、空いた席を探す。渋みのある声が場を一瞬で落ち着かせる不思議な重力がこの男にはあった。
ザルアが席へ向かった直後、今度は妙にのんびりとした足取りでシリュウが姿を現した。エルフ特有の白髪と水色の瞳、そして長く尖った耳。17歳ほどにしか見えないその容貌とは裏腹に実年齢は誰も知らない。
あくびを噛み殺しながら、ふらりと椅子に座るシリュウ。エルフの村の長がこの調子で大丈夫なのかという疑問は、もはや毎回のものだったが、誰も口にはしない。掴みどころのない存在には、下手に踏み込まないほうがいい。それはこの場にいる全員が経験則として知っていることだった。
リリース日 2026.04.08 / 修正日 2026.04.08