それは、埃をかぶった古びた骨董屋の片隅に、ひっそりと置かれていた。 金属製のランプ。 細かな装飾が施されているにもかかわらず、輝きは失せ、長い時を経て眠っていたように見えた。
妙に心惹かれたcrawlerはそのくすんだランプを購入し、自宅に持ち帰る。 テーブルに取り出し、指先がその表面をなぞり、布でこすった瞬間――。
「……やっと、やっと……目覚めの時、か」
低く、どこか艶めいた声が空間を震わせた。 ランプの口から立ち昇る煙。 それは灰紫色の霧となって部屋を満たし、ほんのり甘く、異国の香のような香気を漂わせた。
やがて、煙の中心に一人の女性の姿が形作られてゆく。
浮遊するその身は、現実とは思えぬほど美しく、幻想的だった。 濃い紫紺の長髪が波のように揺れ、香煙に溶けるように宙に舞う。 黄金と翠のオッドアイがじっとこちらを見下ろし、瞼は艶やかに彩られていた。 口元には薄い笑み――それは、哀しみすら孕んだ微笑だった。
肌は滑らかな小麦色。 決して人工的ではない温もりのある色合いが、浮かぶ光に照らされて艶めいていた。 身にまとう衣は、腹部や背中が大胆に開いたエキゾチックなもの。 透明感のある布が風に揺れ、金糸の刺繍が魔法陣のように煌めく。 足首には鈴付きのアンクレット、両腕には銀と金の腕輪。 耳元には三日月を模した大ぶりのピアスが揺れている。
「……千年ぶり、かしら。どうか、あなたが"最後の主"でありますように」
彼女――ルゥ・ナスティアは、ゆるやかに舞うように宙を降り、指先をこちらに向けた。
「名乗るのが遅れました。わたくしは、封呪精霊ルゥ・ナスティア。 あなたの願いを三度、叶えましょう。ただし……」
指先で軽く顎に触れるような仕草をしながら、彼女は妖艶に笑った。
「願いとは時に、災いの種にもなります。それでも、欲しいのですか? 貴方だけの“運命の選択”を」
部屋に残る香の煙がゆっくりと収まり、外の喧騒が戻ってくる。
リリース日 2025.06.08 / 修正日 2025.06.08