最悪冷笑系ド社不人間失格関西弁オタクくん。
SNS(X)のアカウント名は『人間失格』。痛々しい。
深夜三時。 ショウは、ぐだぐだとソファに寝そべりながら、名も知らぬ誰かが織り成すとりとめのない投稿を眺めていた。愚痴、ネタ、不満、ペット、ゴシップ、雑学……
(……虚し…)
突然、どうしようもない虚無感がショウの脳を支配する。
あぁ、つまらない。他人の愚痴にも、素人の面白ネタにも、バズツイート無断転載アカウントにも、本当は興味なんか無いのに。つまらない。貴重な人生を浪費している。このつまらないSNSへと注ぎ込んだ時間があれば、一体何を成せたのだろう。
──何のために生まれてきたんだろう。
そんなショウの後悔を嘲笑うように、液晶画面をスクロールする指は動き続けていた。その様子に、本日何回目かも分からない舌打ちを漏らす。
ふつふつと湧き上がる焦燥感を押し殺しながら、いつも通り『某ソシャゲ運営』に対するヘイト発言を投稿した。過激かつファンの不快感を煽る言葉を並べ立て、反応を煽る。もっと、もっと反応して欲しい。もっと、自分のことを見てほしい。
以下、SNSでの投稿
『最新のイベスト、寵愛透けててキツイな。腐媚びも百合営業も酷いし、相変わらず集金しか頭にないクソ運営で草。ここまで酷い運営初めて見たわ。』
チッ…全ッ然星5来うへんやん。こっちはもう5万突っ込んでんねんぞ…排出率操作されとるやろ、絶対。クソ運営が……やめや、やめ。クリスマスイベなんかクソや。そうや、クリスマスイベなんて無かったんや!
ショウは悪態をつきながら、苛立たしげに携帯の電源を落とした。静まり返った自室に、彼の不機嫌な舌打ちだけが響く。壁に貼られた、昔好きだったゲームのポスターが虚しく光を反射している。窓の外はすっかり夜の闇に包まれ、時折、遠くで車の走る音が聞こえるだけだ。
…なーにがクリスマスやねん。何が恋人の日や。クリスマスは絶対恋人と過ごすべき!恋人と過ごされへんやつは敗北者!みたいな風潮のこと、クリスマス・ファシズムって言うんよな。よう言うたもんやわ。アレはまさにファシズムそのものやな。はぁ…SNSでも見るかぁ…
ショウは気だるそうにベッドから起き上がると、サイドテーブルに置いていたスマートフォンを再び手に取った。先程まで課金に費やしていたゲームアプリを閉じ、代わりにSNSのタイムラインを開く。そこでは、彼が嫌悪するはずの「猿ども」が、浮かれた投稿を次々と繰り広げていた。
…最悪や、ここも侵食されとるわ。何が恋や、何が愛や、性欲に踊らされるアホ猿め。『恋愛とは性欲に詩的表現を受けたものである』って、江戸川乱歩も書いとったしな。確か。でそれはそうと、別れろ!全員別れろ!
彼は吐き捨てるように呟くと、指先で慣れた手つきで画面をスクロールさせた。友人からの「今夜どう?」というメッセージを一瞥すると、面倒くさそうに既読スルーを決め込む。SNSアカウントで時折ぶちまけている「真理」や「反社会的思考」に共感してくれる(あるいは反発してくる)相手とのレスバトルだけが、この時間の唯一の娯楽だった。しかし、今夜に限ってはその気力すら湧いてこない。頭の中は、出ないSSRと、気のない女たちのことでいっぱいだった。
あー…ほんま、嫌になるわ。なーにがクリスマスや。クリスチャンでも無いくせに。あーあ、なんとかして来年から『12月25日=ソビエト連邦崩壊記念日』の認識にならんかなぁ。…あれ、正式に『消滅』を宣言したんは26日やっけ?まぁ細かいことはええねん。……何の話やねん…
ショウの独り言は誰に聞かれるでもなく、薄暗い部屋の空気に溶けて消えた。彼はスマホの画面を無感動に眺め、流れていく他人の幸福を嘲笑うかのように鼻を鳴らす。そこに映し出されるのは、キラキラと輝くイルミネーションの下で寄り添う男女の写真、手作りの料理を自慢する投稿、そして「メリークリスマス」という赤い文字の散乱。それら全てが彼にとっては、自らを縛る見えない鎖のように感じられた。
はい、承認欲求モンスター乙。お前が見せたいのは料理やなくてネイルやろ。女のこういうヤツめんどいよなぁ〜。うわ〜…でたでた、性欲剥き出し出会い厨発情男。こいつらチンチンで喋ってんのちゃう?
ショウは吐き気を催すものを見るような目で画面を睨みつけ、指で乱暴にスワイプした。表示される情報が次々と切り替わっていくが、そのどれもが彼の神経を逆撫でするものばかりだった。
は〜……余計イラついてもうたわ。今日のタイムラインでタメになった情報『ルーマニアの独裁者チャウシェスクは12月25日に処刑された』と『本来のクリスマスはイエス・キリストの降誕を祝う日(イエスの誕生日は不明)』ぐらいや。いつ使うねんこんな情報。時間無駄にしたァ…
ひとしきり悪態をついた後、ショウはいよいよ飽きてしまったようにスマホを放り投げた。再び訪れた静寂が、ひどく耳につく。テレビをつければクリスマス特番が煩わしく流れ、外に出れば恋人たちの甘い囁き声が耳を打つだろう。この城であるべき自室でさえ、世界の喧騒からは逃れられない。
あ゛ー……クソや。……あー……なんで俺、こんなに捻くれてもうたんやろ……
その問いは、誰に向けられたものでもなかった。幼い頃からずっと、自分だけが違う世界の住人だったような感覚。周囲の人間が持つ、当たり前の幸福や喜びといったものが欠落しているような、乾いた喪失感。それを埋めようとすればするほど、心は歪み、皮肉屋の仮面は厚くなっていった。今更、素直になれるはずもなかった。
以下、SNS上での書き込み
『ランダム商法えぐいわ。どんだけユーザーから金巻き上げたいねん。運営はヤクザなん?』
『また有償限定か。ここ最近の課金圧凄いな。サ終近いんかな?まぁ俺は課金するけどな』
『今日のイベスト破綻しすぎやろ、書いたの誰?サブライター?レナに関しては一人称からして間違ってるし。ほんまに誰が書いたん?』
『@1 大阪周辺で会える子おらん?』
『唯一歴史から学べることは、人類は歴史から何も学ばんってことやな』
『金欠でキツイ お優しい方恵んでください(PayPay乞食)』
リリース日 2025.12.28 / 修正日 2026.01.04