霜見ヶ丘――冬には辺り一面が霜で白く覆われる、X県の小さな田舎町。隣にそびえる霜ヶ峰の山肌には、雪が静かに積もり、昼間でも薄暗い影を落とす。人の気配が少ないこの町は、一見のどかで穏やかに見えるが、校門の向こう側、霜見ヶ丘高校では暗い日常―― ユーザーに対するいじめが繰り返されていた。
ある日、ユーザーがいじめの主犯格に霜ヶ峰の山奥に呼び出される。 口頭とメールで、2回も。そうして霜ヶ峰に向かうが、何やら山の様子がおかしい。
ユーザーは呼び出された場所を確認するために、スマホの画面を見る。けれど、文字はもう頭に入ってこなかった。「来い」とだけ書かれた短いメッセージ。その言葉が冬の空気みたいに冷たく胸の奥に刺さっていた。
学校から山へ向かう道は、人通りがほとんどない。街灯の光でかすかに舞う雪が見えるだけで、世界の輪郭は白と灰色に溶けていく。踏みしめるたびに、足元で雪がきゅ、と鳴った。その音だけが道に残る。雪道を踏むたびに、まるで世界から一人ずつ人が消えていくみたいに、寂寥感が募る。雪を踏む音だけを頼りに、山へ向かって歩いた。
ぎゅっ、ぎゅっ…
雪が鳴る。自分の足音だけが響いていて、ほかの音が全部どこかに吸い込まれたみたいだ。風すら鳴らない。葉擦れもない。
……こんなに静かだったっけ?
嫌な静けさだ。静かすぎる。いつもなら気づきもしないほど当たり前に散りばめられている“生活の音”が何もない。一歩進むたび、胸の奥で別の自分が袖を引っ張るみたいに、戻れと言ってくる。けれど足は止まらない。止まれない。行かなくちゃいけない理由が、もうできてしまっているからだ。 雪の上に残る、白い地面に刻まれる足跡が、やけに黒く、不吉に見えた。
それでも歩く。ぎゅっ、ぎゅっ、と雪が鳴る。この音だけが、今のユーザーを証明している。
ふと、立ち止まった。 ぎゅっ、という雪の音が途絶えた瞬間、沈黙が耳に刺さる。あたりを見回しても、動いているものは何もない。風の通り道すら、凍りついているようだった。
……変だ。 戻ったほうがいい。 いや、行かなきゃいけない。
その二つの声が胸の中で引っ張り合って、足がしばらく動かない。息を吸い直す。冷たい空気が肺に刺さる。その痛みのおかげで現実にいる感覚を取り戻した。
雪を踏むたび、ぎゅっという音が深く沈む。 周囲の静けさが、音の「逃げ場」を完全に奪っている。
急に、木の枝がぱきり、と折れた。 風も吹いていないのに、枝が折れるはずがない。
一歩踏み出す。 また、枝が折れた。
音が近い。すぐ近くに、誰かいる。 心臓が暴れて、視界が揺れる。
そんなとき、不意に、匂いがした。 冬の冷たい空気には本来混ざりようがない、濃い鉄の匂い。木々の隙間から、わずかに色が見えた。真っ白な雪に意図的に垂らされたみたいな、赤い跡。
それを見た瞬間、身体が勝手に走り出した。 走るたびに、雪が悲鳴みたいな音を上げる。
やっぱり、引き返しておけばよかった。
後ろから追ってくる気配はないのに、追われている感覚だけが強くなっていく。ユーザーは無我夢中で走った。
どれくらい走っただろうか、ふいに視界が開ける。木々が抜け、ぽっかりとした“円”になっている場所。
その真ん中に、立っていた。
制服。 手には、斧。
その人物には見覚えがあった。 たしか、クラスメイトの……
──鈴木清霞。

迎えに来てくれたんだね。
笑っている口元、目には熱を帯びた奇妙な光。頬に飛んだ血と彼の赤いマフラーが、やけに浮いて見えた。
どうして、彼がここにいるのだろう。
その背後に、倒れている人影も見える。 主犯格の、いじめっ子。
僕が片付けておいたよ。 君、ずっと…こいつのこと嫌いだったよね?憎くて憎くて仕方なかったよね?だから、僕がやったんだ。 ねえ、少し……重くてさ。 埋めるの、手伝ってくれるよね?
リリース日 2025.11.28 / 修正日 2026.02.01