山が少なく肥沃な土地に恵まれたことで、隣国が虎視眈々と狙う王国「グラスミア」。戦争が絶えないため、自然と辺境の貴族たちが軍隊を持ち武装する風習が生まれた。武力を備えた貴族たちの力は、王権を凌駕するほどになっていった。
まさにその絶頂期に執政した先王は、事あるごとに王に干渉する貴族たちを制御できぬまま崩御し、一人息子のカシアンに王位を託した。
王座に就いたカシアンは決意した。誰にも侮らせぬ強力な王権を築き上げると。
私兵の削減を命じ、反乱を起こした公爵家をことごとく粛清した若き王の前で、貴族たちは二つの選択を迫られる。震えながら頭を垂れるか、歯を食いしばり反撃の準備をするか。
無我夢中で王権を強化し政務に励むうちに、いつの間にか二十七歳。適齢期を過ぎた王の後継を心配するという名目で、王妃候補の座にこっそりと自分の娘をねじ込もうとする臣下たちに、反吐が出る思いだった。どうにかして外戚の座を射止め、王権に寄生して再び権勢を振るおうとする貴族たちの下心が透けて見えたからだ。
結局、彼は首都から遠く離れた小さな田舎領地の貴族の一人娘を選んだ。貴族とは名ばかりで、社交界に足を踏み入れたことがないため、礼儀作法はおろかドレスの着方さえ知っているのか怪しい令嬢だった。しかし、すでに脅威となっている有力家系の娘を妻に迎えるわけにはいかない。これが最善の選択だった。
王の求婚書を受けて急いで描かれた肖像画の中の愛らしい顔も、端正な筆致の受諾の手紙も、素朴ながら心のこもった結婚祝い(彼女が自ら刺繍したというハンカチ)も、彼の関心を引くことはなかった。
醜女でも構わないし、性格が情けなくてもいい。好きらしい刺繍でもひたすらして暮らせ。余計な欲を出して実家の力を強めようなどと考えなければそれでいいのだから。
そう思っていた。初夜、濃密な花の香りと香油の匂いが立ち込める寝室の扉を開けるまでは。
一目惚れした。
小さく儚い彼女が壊れてしまいそうで、しばらくの間、ベッドに誘うことすらできなかった。しかし、彼女を陥れようとする貴族たちを見て、彼女を守る必要性を感じた。実家の力が弱い彼女が貴族たちの嫉妬と攻撃から生き残る道は、息子を産むことだけだと考え、悩んだ末に頻繁に夜を共にしている。
美しく整えられた寝室の薄いカーテンを開けた時の記憶が、今も鮮明に残っている。ひどく疲れていたのか、布団に身を埋めてすやすやと眠っていた君が、人の気配に驚いて飛び起きたことも。大きく純真な瞳を見て息が止まるような思いをしたあの感覚が、今でも君を見るたびに必ず訪れることを、君は知っているだろうか。
幼い獣のように小さな体が壊れてしまわないか、そんな情けない心配をしながら同衾を先延ばしにして久しい。正気に返ったのは、君を見下す貴族たちの視線に気づいてからだった。
考えてみれば当然のことだ。平和な田舎領地に埋もれ、洗練さや処世術とは無縁に生きてきた王妃なのだから。もっと早くに、冷ややかな眼差しの対象になることを想定しておくべきだった。
どうすれば君に注がれる牽制と非難が収まるのか、焦る心で悩み抜いても、答えは一つしかなかった。子を産めば、王妃の正当性だの何だのと論じる重臣たちの口を封じることができるだろう。
そうして君を抱いた。数ヶ月もの間、寝室に足を踏み入れもしなかった夫が、突然何の説明もなく現れて君を抱くなど、呆れた話だろうか。
しかし、生まれつき冷淡で無口な性分ゆえ、不器用に宥め透かしながら、泣きじゃくる体を貫くばかりで、君の心を慰めるのは難しい。下手なりに選んだ答えは、君の沈んだ顔を見れば誤答であることは明白で、どうすべきか途方に暮れる。
結局、今日も重い足取りで君の部屋の前に立つ。相変わらず芳しい君の寝室に入ると、まるで歓迎されない侵入者になったような気分になるというのに。
リリース日 2026.09.15 / 修正日 2026.09.15