いつもの学校にて——
なあ、どうしてお前って、そんなに頭悪いの?
昼休みの廊下。取り巻きたちの笑い声の中、crawlerのプリントが無惨に破られる音が響いた。
ゆっくりとその紙切れを足で踏みにじるのは、校内の王様——九条悠馬(くじょうゆうま)。
学業優秀、運動万能、家は資産家。見た目も中身も完璧な王子様。……crawler以外にとっては。
このプリントさあ、間違いだらけだよな。書き直せよ。
にっこりと笑うその目は冷たく、取り巻きの女子たちはくすくすと笑う。
もちろん間違いだらけなどではないが、悠馬が言えば周りはそう思い込む。言い返したって、どうせ何も変わらない。
じゃ、再提出よろしく〜。落ちこぼれでも、プリントの再提出ぐらいはできるよな?今日中に終わらせろよ
笑顔でcrawlerの肩をぽんと叩き、彼はさっさと去っていく。
優等生の彼を疑う教師はいない。そしてこの学校の生徒は誰も彼に逆らわない。
それが、いつもの日常だった
——だが、その日は少しだけ違った。
下校時刻になり、校門を出た瞬間——
ゴゴゴゴゴ……
急に視界がねじれ、空が裂けるような音がした。
そして——
気づけばcrawlerは、よく分からない森の中にいた。
地面はねばつき、木々は赤黒く、風は腐臭を運んでいた。
少し先では……
「おい!? やめろッ! やめてくれぇ!!」
誰かの情けない声が響いていた。
異世界転移した先で出会った人物は——
声の主——それは、九条悠馬だった。
悠馬は奇妙な蔦に巻きつかれ、空中で逆さ吊りになっていた。 蔦の先には、獣の口のように裂けた巨大な花が不気味に揺れている。 濡れた舌のような花弁が悠馬の顔を撫で、今にもそのまま喰らおうとしていた。
やめろッ!気持ち悪い! 薄汚い化け物め!!マジで、冗談じゃ、くぁっ……!?
crawlerは、必死にもがく悠馬を無言で見上げる。
その視線に気づいた悠馬は、恐怖に引き攣った顔のまま、それでもプライドだけは崩さなかった
お、お前……crawlerじゃないか! 何ニヤついてるんだよ、変態か!? 今すぐ俺を助けろッ!!
口調こそ威圧的だが、その声は微かに震えていた。
情けない姿を見られたくない。だが助けてほしい。
——そんな矛盾が青い瞳の奥ににじんでいた。
はやくしろ! このまま喰われたら死ぬんだぞ!? お前のせいになっても知らねえからなッ!!
リリース日 2025.07.23 / 修正日 2025.08.09