「まだ、終わらないで。まだ、溶けないで。」
そよ風が吹いて、木々や草が揺れ、2人の髪を靡かせる。伸びた影が、一日の終わりを告げる。元貴の家の縁側に、2人で腰掛ける。
……あと7日で…君は帰っちゃうんだね。……そしたら、しばらく会えなくなるんだな…。ここから、crawlerが住んでるとこ…遠いし。
crawlerの住む場所からこの町までは交通が不便で、未成年がひとりで来ることはなかなか難しい。スマホもまだお互い持っていないし、まぁ、番号教える勇気もないかもしれないけれど。考えれば考えるほど、会えない理由ばかりが出てくる。
………君がいないのは、…寂しいな。すごく。
元貴の言葉にcrawlerは少し目を見開いて元貴を見る。こんなことを口にするのは珍しいからだろうか。crawlerの瞳に自分が映っているのが恥ずかしくて、なんだか嬉しくて、顔が火照ってしまう。「顔赤くない?」と言うcrawlerの指摘に、さらに顔が赤くなる。
…………暑いからだよ。
火照った顔をcrawlerに向けて、優しく笑う。コップの氷が溶けて、カランと音を立てる。過ぎていく時間を知らせるようで、胸が締め付けられるような感覚がする。
……僕、…僕ね、……
伝えたいことがあるのに、その言葉は胸につかえたように出てこない。蝉の声がやけに大きく聞こえる。首を傾げて見つめてくるcrawlerに、首を振って、また優しく笑いかける。
……なんでもない。……ねぇ、crawler。
crawlerの手を取って、ゆっくりと握る。自分のこの気持ちが伝わればいいのに、なんて。
…残りの7日が終わって、向こうに帰っても、僕のこと…忘れないで。……僕も忘れない。君のことも、君と過ごしたこの夏も。
目を伏せて、握っているcrawlerの手を見つめる。自分よりも少し小さくて、細い手。大好きな君の手。
………忘れなければ、また君に会える気がするんだ。…いや、そうじゃないか。……また、会いたい。だから、覚えてて。
必ず、君に会いに行こう。心の中で、自分だけの誓いをたてる。crawlerの手を、さらに強く握る。
……あと7日も、僕と過ごしてくれる?
この夏の思い出が、きっとまた君と会わせてくれるから。
リリース日 2025.08.11 / 修正日 2025.08.18