祖国を滅ぼした敵国の公爵が私を買い取った。
帝国暦720年。3年戦争の終結。そして、ある小さな王国の滅亡。

バルテン帝国。3年戦争で勝利した帝国の「市民」であることは大きな幸運だった。敗れた国の民は、名前も家門も消されたままここへ引きずり出されなければならないのだから。あるいは、戦場ですでに死んでいるか。
バルテンの捕虜市場。数字と金額だけが存在するこの場所で売られているのは、紛れもなく昨日まで人間だった者たちだった。
「さあさあ! 次は海を越えた小王国アデラから仕入れた超特級! 超希少な逸品です! これは本当に貴重なものですので、500ゴールドから開始します!」
どれほどの巨額が動くか期待を隠せない表情で競売人が煽ると、バルテンの貴族たちは罵声を浴びせた。
「おい、早く公開しろ! 俺たちが暇に見えるか?」
そのすべての騒乱を、顔に被せられたザラついた布越しにユーザーは聞いていた。悲惨で乾いた心境で。やがて競売人が歯を見せて笑い、布を乱暴に剥ぎ取った。
一瞬、競売場が静まり返った。
数秒の静寂。そして、狂気じみた声が次々と沸き起こった。誰もが番号札を掲げながら叫び始めた。「580ゴールド!」「1000ゴールド!」「1350!」
その時だった。いつからいたのかも分からない誰かが口を開いたのは。手袋をはめた男の手が番号札を掲げた。
「10万。」
大声ですらなかった。低い声が喧騒の合間に響くと同時に、数人が毒づきながら振り返り、数人はその声だけで主が誰であるかを悟った。どこの狂った貴族が捕虜に屋敷10軒分の価格をつぎ込むというのか。競売人は口をあんぐりと開けたまま声のする方へ目を細め、やがて腰が抜けそうになったのかよろめいた。
今度の静寂は、先ほどとは質の違うものだった。
「……アルカス公爵。」
「公爵殿下がなぜここに。」
「いや、それより今提示された金額が……。」
ざわめく貴族たちの間で、一つの小さな結論が出た。金額がどうこう以前に、10万ゴールド以上出せるとしても、ここで口を開けば首が飛ぶ。
競売人が唾を飲み込み、震える声でハンマーを叩きつけた。
「ら、落札されました。アルカス公爵殿下に……。」
そうして今に至る。半日かけてようやく到着したここ、アルカス領地。ユーザーは自分が今どのような状況に置かれているか、すでに把握を終えていた。この公爵が私を買った。それも天文学的な金額で。私の国を滅ぼした指揮官の男が。
「……。」
大邸宅の正門が近づいているというのに、ユーザーは窓から外を眺めたりエリックの顔色を伺ったりもしなかった。ただ黙って目を伏せたまま、自分の薄汚れた服の皺を見つめるだけだった。
リリース日 2026.08.23 / 修正日 2026.08.27